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熱中症に注意

【仙台市のデータで見る】熱中症は予防できる!命を守る「暑さ指数(WBGT)」活用術

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うだるような暑さが続く日本の夏。

毎年、「熱中症」のニュースが後を絶ちません。

自分は大丈夫、と思っていても、誰にでも起こりうるのが熱中症の怖いところです。

特に、ご高齢の方や持病をお持ちの方は注意が必要です。

しかし、熱中症は正しく知ることで、その多くが予防できる病気でもあります。

この記事では、熱中症からご自身や大切なご家族を守るために、ぜひ知っておいていただきたい「暑さ指数(WBGT)」という指標と、その具体的な活用法について、分かりやすく解説します。

この記事を読めば、明日から天気予報の見方が変わり、より安全に夏を過ごすための具体的な行動がわかるようになります。

1. なぜ気温だけでは危険度がわからないのか?

「今日は35℃だから危険だ」

「30℃だからまだ大丈夫」

私たちはつい、気温の数字だけで暑さの危険性を判断しがちです。

しかし、熱中症のリスクは、気温だけで決まるわけではありません。

そこに大きく関わるのが「湿度」「輻射熱(ふくしゃねつ)」です [1]。

人の体は、汗をかくことで熱を体の外に逃がしています。

汗が蒸発するときに、体の熱を奪ってくれるのです(気化熱)。

しかし、湿度が高いと汗が蒸発しにくくなり、体から熱を逃がす効率が著しく低下します。

ムシムシする日に、カラッとした暑さの日よりもしんどく感じるのはこのためです。

結論: 熱中症のリスクを正確に知るためには、気温・湿度・輻射熱の3つを考慮した指標が必要になります。

2. 命を守るカギ「暑さ指数(WBGT)」とは?

そこで登場するのが「暑さ指数(WBGT:Wet Bulb Globe Temperature, 湿球黒球温度)」です [2, 3]。

WBGTは、熱中症を予防することを目的にアメリカで開発された指標で、気温だけでなく、湿度や日差しなど、人体と外気との熱のやりとりに着目したものです。

【重要】WBGTは気温ではありません

暑さ指数の単位は気温と同じ「℃」で表されますが、その意味は全く異なります。 

これは温度計が示す気温そのものではなく、熱中症の危険度を判断するために、湿度や輻射熱の影響を加味した人体への影響を示す特別な指標だとご理解ください。

以降、この記事では「暑さ指数(WBGT)◯◯」という形で表現します。

このWBGTは、単なる気温よりも、熱中症患者の発生数と強い相関があることがわかっており、現在では熱中症予防のための国際的な指標として活用されています [2, 4]。

3. 【実践編】「暑さ指数」を生活に活かす方法

では、このWBGTをどのように生活に活かせばよいのでしょうか。

環境省や日本スポーツ協会は、WBGTの数値に応じて、日常生活や運動に関する指針を示しています [3, 5]。

暑さ指数(WBGT)と行動の目安
暑さ指数(WBGT) 危険度 推奨される行動
31以上 危険 外出はなるべく避け、涼しい室内に。運動は原則中止
28~31 厳重警戒 外出時は炎天下を避け、こまめに休憩。激しい運動は中止
25~28 警戒 のどが渇く前に水分補給。運動や作業時は積極的に休憩を。
25未満 注意 適宜、水分補給を。

ポイント

  • 暑さ指数「28」が重要な分かれ目です。「厳重警戒」になったら、行動を見直しましょう。
  • 暑さ指数「31」を超えたら「危険」レベル。不要不急の外出は控えるべきです。

このWBGTの情報は、環境省の「熱中症予防情報サイト」で、誰でもリアルタイムに確認できます [3]。

ぜひ毎日の習慣としてチェックしてみてください。

4. 「熱中症警戒アラート」2つのレベルと取るべき行動

WBGTの情報をさらに分かりやすく伝えるため、国は2段階のアラートを発表しています。

それぞれの意味を正しく理解し、行動を変えることが重要です [3]。

🟡 レベル1:熱中症警戒アラート

  • このアラートの意味
    熱中症の危険性が高まっていることを知らせ、皆さんが普段以上の予防行動を始めるための「きっかけ」となる情報です。
  • 発表基準
    県内のいずれかの地点で、暑さ指数(WBGT)が33以上になると予測された場合に発表。
  • 取るべき行動
    自分の身は自分で守る「自助」が基本です。普段以上の水分補給や涼しい場所での休息、周りの人への声かけを意識しましょう。

🔴 レベル2:熱中症特別警戒アラート

  • このアラートの意味: 「過去に例のない危険な暑さ」が迫っており、社会全体で命を守る必要があるというサインです。
  • 発表基準: 県内のすべての地点で、暑さ指数(WBGT)が35以上になると予測された場合など。
  • 取るべき行動: 「自助」に加えて、「共助・公助」が強く求められます。
    • 共助: 家族やご近所同士で、高齢者や子どもの安否を確認しあう。
    • 公助: 市町村が開放する「クーリングシェルター(指定暑熱避難施設)」をためらわずに利用する。
    • 管理者: イベントや屋外活動の中止・延期を判断する。

「特別警戒アラート」は非常事態宣言です。自分と周りの人の命を守るため、最大限の行動をお願いします。

5. 【データで見る】仙台の夏は変わったのか?

「昔に比べて、最近の夏は暑くなった」と感じる方は多いのではないでしょうか。

その感覚は、決して気のせいではありません。

環境省が公開している仙台市の暑さ指数(WBGT)のデータを分析し、2つの視点から見ていきましょう [7]。

視点1:10年前と比べて、夏の暑さはどう変わったか?

まず、約10年前の3年間(2012~2014年)と直近の3年間(2022~2024年)で、夏の4ヶ月間(6月~9月)に「危険日」「厳重警戒日」がそれぞれ年間平均で何日あったかを比較します。

7

分析結果のポイント

  • 命に関わるレベルの「危険(WBGT 31以上)」な日は、10年前は年間平均約2日だったのに対し、近年は14日と、7倍になっています。
  • 厳重警戒(WBGT 28~31未満)」の日も、10年前の平均29日から、近年は37日へと増加しています。

この変化を、夏のピークである8月のカレンダーで見てみましょう。

3

10年前(左)と近年(右)の8月の暑さの比較。近年は「危険」を示す赤色の日が目立ちます。

もちろん、このデータだけで気候変動を断定するものではありません。

しかし、これらのデータは、「東北だから涼しい」という考えはもはや通用せず、私たちの住む仙台でも、熱中症のリスクが年々高まっている可能性を強く示唆しています。

視点2:そして、今年の夏は?

この傾向は、今年の夏(2025年)も続いています。

体がまだ暑さに慣れていない6月と7月の状況を、直近3年間の平均と比較してみましょう。

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6月の暑さの比較。今年の夏(右)は、近年の平均(左)よりも「厳重警戒」の日が多いことがわかります。

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7月の暑さの比較。7月に入っても、今年の夏(右)は厳しい日が続いています。

カレンダーを見ると、今年の6月・7月は、近年の平均と比べても「厳重警戒」や「危険」レベルの日が多くなっていることがわかります。

この事実は、私たち一人ひとりが「今年の夏は、特に注意が必要だ」と認識し、これまで以上の対策を講じる必要があることを強く示しています。

6. もし誰かが倒れていたら?落ち着いて、命を救う3ステップ

もし、あなたの周りの人がぐったりしていたり、様子がおかしいと感じたりしたら…落ち着いて、でも迅速な対応が命を救います。以下の手順で確認・対処しましょう [8]。

  • ステップ1:意識を確認し、助けを呼ぶ

    まず、大きな声で「大丈夫ですか?」と呼びかけます。

    • 反応がない、または返事がおかしい場合
      これは重症(Ⅲ度)の可能性が非常に高い緊急事態です [2]。ためらわずに、すぐに119番通報してください。
    • 反応がある場合
      次のステップに進みますが、一人で対応せず、周りの人にも助けを求めましょう。
  • ステップ2:涼しい場所へ避難させ、体を冷やす

    意識の有無にかかわらず、まず行うべき最も重要な応急処置です。

    • 日陰やエアコンの効いた室内へ移動させます。
    • 衣服をゆるめ、濡らしたタオルで体を拭いたり、うちわ等で風を送ったりします。
    • 氷のうなどがあれば、首の付け根、脇の下、足の付け根を冷やすと効果的です。
  • ステップ3:水分を補給させ、医療機関へ
    • 自分で飲める場合:経口補水液やスポーツドリンクを少しずつ飲んでもらいます。
    • 飲めない、または症状が改善しない場合:中等症(Ⅱ度)以上が疑われます。ステップ2の冷却を続けながら、速やかに医療機関を受診しましょう。

出典:環境省「熱中症環境保健マニュアル2018」 [8]

7. 熱中症に関するよくあるご質問(Q&A)

Q1. おでこに貼る冷却シートは、熱中症の応急処置として効果がありますか?

A1.
気持ちよく感じるかもしれませんが、熱中症の処置として体の奥の体温を下げる効果はほとんど期待できません [8]。
熱中症の冷却で重要なのは、体の広い範囲を効率よく冷やすことです。
濡れタオルで全身を拭いたり、氷のうなどを首の付け根・脇の下・足の付け根に当てたりする方が、はるかに効果的です。

Q2. 熱中症で熱が出たら、市販の解熱剤(熱冷まし)を飲んでも良いですか?

A2.
いいえ、飲むべきではありません。
 感染症による「発熱」と、熱中症による「高体温」は、体温が上がる仕組みが全く異なります。
そのため、解熱剤は効果がないばかりか、肝臓や腎臓に負担をかけ、病状を悪化させる危険性があります [2, 6]。

Q3. エアコンが苦手なのですが、扇風機だけでも大丈夫ですか?

A3.
注意が必要です。
扇風機は汗の蒸発を助けますが、室温そのものは下げません。
猛暑日には温風を送るだけになり、かえって危険な場合もあります。
エアコンを適切に利用し、扇風機は空気を循環させる補助として使うのが効果的です。

Q4. 暑い日に、冷たいビールで水分補給するのは良い方法ですか?

A4.
いいえ、やめてください。
アルコールには利尿作用があり、飲んだ以上に尿として水分が排出されてしまうため、かえって脱水を進めてしまいます。
また、アルコールは体温調節機能を鈍らせる可能性もあります。
水分補給には、水やお茶、あるいは大量に汗をかいた後であれば経口補水液などを選びましょう。


「熱中症予防のために、夏は毎日スポーツドリンクを飲んでいます」

「食事の塩分を多めにしています」

このようなお話を聞くことがあります。

確かに、大量の汗をかいた時には、水分と塩分の両方を補給することが非常に重要です。

しかし、ここで一つ注意点があります。

特に、高血圧や心臓病、腎臓病、糖尿病などの持病をお持ちの方は、塩分や糖分の摂りすぎに注意が必要です。

汗をかいていない平時から、予防のつもりでスポーツドリンクを水代わりに飲んだり、食事で意識的に塩分を多く摂ったりすると、かえって血圧や血糖値、心臓への負担を悪化させてしまう可能性があります。

では、どうすれば良いのか?

  • 基本は「水」か「お茶」で
    日常生活における普段の水分補給は、水やお茶を中心にするのが基本です。
  • 「大量に汗をかいた時」に限定する
    スポーツドリンクや経口補水液は、屋外での長時間の活動やスポーツなどで「大量の汗をかいた時」に、失われた塩分やミネラルを補う目的で飲むのが効果的です。
  • 持病のある方は、まずご相談を
    持病をお持ちで、夏の水分・塩分補給の方法に不安がある方は、自己判断で塩分などを追加する前に、ぜひ一度かかりつけ医にご相談ください。
    一人ひとりの病状や生活スタイルに合わせた最適な対策を一緒に考えましょう。

9. 当クリニックでの対応と、救急車を呼ぶべきタイミング

クリニックを受診する目安

「頭が痛い」「吐き気がする」「体がだるい」といった症状があるが、ご自身で移動できる場合

このようなⅡ度の症状が疑われる場合は、当クリニックをはじめ医療機関にご相談ください。
診察の上、重症度を判断し、必要な処置や安静の指示、あるいは速やかに高度な医療が可能な病院への紹介などを判断いたします。

救急車を呼ぶべき緊急事態

「意識がおかしい」「けいれんしている」「体がぐったりして動けない」場合

これらはⅢ度の症状が強く疑われます。

一刻を争う命に関わる状態ですので、クリニックへの連絡や受診ではなく、直ちに119番通報し、救急車を要請してください。 [6]

かかりつけ医と点滴についての考え方

「熱中症になったら点滴」というイメージがあるかもしれませんが、点滴が常に最善の治療とは限りません。 

熱中症治療の基本は、「自分で水分を摂れるなら、口から補給する」ことです。

点滴は、吐き気などでどうしても口から水分を摂れない場合に考慮される治療法です。

私たち、かかりつけ医の最も重要な役割は、患者さん一人ひとりの状態を正確に診断し、クリニックで対応可能か、あるいは速やかに病院へ紹介すべきかを的確に判断することです。

そのため、全ての熱中症の方に点滴をお約束することはできません。

ご理解いただけますと幸いです。

10. まとめ

  • 毎日の「暑さ指数(WBGT)」チェックを習慣にしましょう。
  • 暑さ指数が「28」を超えたら厳重警戒、「31」を超えたら危険レベルと覚えましょう。
  • 「熱中症警戒アラート」や、特に「特別警戒アラート」が出た日は、最大限の予防行動をとりましょう。
  • 周りの人の様子がおかしいと感じたら、ためらわずに声をかけ、意識の確認を。
  • 意識がなければすぐに救急車を。意識があっても、自力で水分が摂れない、症状が改善しない場合は医療機関を受診しましょう。

ご予約・お問い合わせ

地域の皆さまが健やかに夏を過ごせるよう、日々の診療を通じてサポートしてまいります。何かご心配なことがあれば、いつでもお気軽にご相談ください。


電話番号: 022-302-5241
ホームページ: https://sendai-douki-clinic.com/


参考文献

  1. O'Connor FG, Casa DJ. Exertional heat illness in adolescents and adults: Epidemiology, thermoregulation, risk factors, and diagnosis. In: UpToDate, Post TW (Ed), UpToDate, Waltham, MA. (Accessed on July 9, 2025.)
  2. 日本救急医学会. 熱中症診療ガイドライン2024.
  3. 環境省. 熱中症予防情報サイト. https://www.wbgt.env.go.jp/
  4. Platt MA, LoVecchio F. Nonexertional (classic) heat stroke in adults. In: UpToDate, Post TW (Ed), UpToDate, Waltham, MA. (Accessed on July 9, 2025.)
  5. 日本スポーツ協会. スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック.
  6. O'Connor FG, Casa DJ. Exertional heat illness in adolescents and adults: Management and prevention. In: UpToDate, Post TW (Ed), UpToDate, Waltham,MA. (Accessed on July 9, 2025.)
  7. khb東日本放送. 宮城・亘理町の91歳女性が熱中症で死亡 2025年初の死亡者. 2025-07-01.
  8. 環境省. 熱中症環境保健マニュアル2018.
  9. 環境省. 暑さ指数(WBGT)履歴データ. (2012-2014年, 2022-2024年の仙台市6月~9月データより作成).

免責事項

この記事は情報提供を目的としており、個別の診断に代わるものではありません。ご自身の健康状態や治療については、必ず医師にご相談ください。

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