症状のない高血圧、なぜ治療が必要?
放置リスクと賢い付き合い方
健康診断で「血圧が高い」と言われたけれど、特に症状はないし、毎日元気に過ごせている…。
このような疑問や不安をお持ちではありませんか?
高血圧は、「サイレントキラー(沈黙の殺し屋)」とも呼ばれ、自覚症状がないまま静かに進行し、私たちの体にダメージを与えていく病気です。
頭痛やめまいといったサインがないために、つい「大丈夫だろう」と見過ごされがちですが、その裏では脳や心臓、腎臓といった大切な臓器への負担が、日々積み重なっている可能性があります。
しかし高血圧は、ご自身の血圧の状態を正しく把握し適切な対策を講じることで、脳卒中や心筋梗塞といった重大な病気のリスクを大幅に減らすことができる病気です。
この記事では、内科・循環器内科の専門医として、高血圧に関する皆さまの疑問や不安に、一つひとつ丁寧にお答えしていきます。
「なぜ治療が必要なのか」
「どのような原因が考えられるのか」
「生活習慣で気をつけることは何か」
「検査や薬とどう付き合っていけばいいのか」
そして「ご自身でできる血圧管理(家庭血圧測定の重要性)」まで、網羅的に解説します。
一緒に学び、未来の健康を守る第一歩を踏み出しましょう。
1. 高血圧とは? ― 基本と放置リスク
血圧の基本的な仕組み
まず、「血圧」とは何かをおさらいしましょう。血圧とは、心臓がポンプのように血液を全身に送り出す際に、血管の壁にかかる圧力のことです。
健康診断の結果などでは、「130/80mmHg(ミリメートルエイチジー)」のように、この2つの数値で表されます。
高血圧の診断基準
では、どのくらいの数値から「高血圧」とされるのでしょうか?
日本高血圧学会が定めた基準は以下の通りです [1]。
分類 | 基準値 |
---|---|
診察室血圧 | 140/90mmHg以上 [1] |
家庭血圧 | 135/85mmHg以上 [1] |
「少し高いだけ」が血管を傷つける ― 放置リスク
血圧が高い状態が続くと、血管は常に内側から強い圧力にさらされ続け、徐々に厚く、硬く、もろくなっていきます。
これが動脈硬化です。
動脈硬化が進むと、血管が詰まったり破れやすくなったりして、以下のような命に関わる重大な病気を引き起こすリスクが高まります [2, 3]。
これらの病気は、ある日突然発症し、命を奪ったり、深刻な後遺症を残したりすることがあります。
自覚症状がないからこそ、早期対策と日々のチェックが重要
高血圧は、ほとんどの場合、自覚症状がありません [1]。
そのため、「気づいたときには、すでに動脈硬化や合併症が進行していた」というケースも少なくないのです。
「今は大丈夫」ではなく、「何ともない今だからこそ」、ご自身の血圧に関心を持ち、必要な対策を始めることが、未来の健康を守る鍵となります。
例え話:車の運転と同じです
安全に車に乗り続けるためには、定期的な車検が欠かせませんよね。
車検でブレーキに異常が見つかれば、大きな事故を起こす前に修理します。
もし、その異常に気づかずに運転を続けていたら、いつ重大な事故につながるか分かりません。
高血圧の管理も、これととてもよく似ています。
家庭血圧を毎日測定することは、いわばご自身の体の“定期点検”です。
この点検によって「普段の血圧が高い」という“異常”が見つかれば、それは体からの重要なサインなのです。
もし家庭血圧の異常に気づかずに、「症状がないから大丈夫だろう」と日頃のチェックを怠って生活を続けてしまうと、静かに病状が進行してしまう可能性があるのです。
だからこそ、日頃からご自身の血圧が常に目標値を達成できているかを家庭血圧測定によってご自身でチェックし、その記録を医師と共有し、それに基づいて治療(おくすりの調整など)を最適化していくことが不可欠です。
普段の生活の中での「本当の血圧」を把握し、治療に活かすことが、あなたの健康を守るための第一歩となります。
(家庭血圧測定の重要性については、「5. 家庭血圧測定のすすめ ― あなたの本当の血圧を知る」や、より詳しい「E. 家庭血圧測定の詳細ガイド」で解説しています。今後順次アップロードしていきます。)
2. 高血圧の原因 ― あなたの血圧はなぜ高い?
高血圧の原因は一つではなく、複数の要因が絡み合って発症することがほとんどです。
遺伝的要因と加齢
これらの要因は、ある程度避けられないものです。
血圧を上げる主な生活習慣
上記の体質的要因に加えて、以下のような日々の生活習慣が血圧を上げる大きな原因となります。
これらの要因は、ご自身の努力で改善できる可能性があります。
これらの生活習慣は、一つひとつは小さなことでも、積み重なることで血圧に大きな影響を与えます。
高血圧の治療や予防は、決して薬だけに頼るものではありません。
本態性高血圧と二次性高血圧
高血圧と診断される方の約9割は、特定の病気が原因ではない、「本態性高血圧」です。
一方、残りの約1割は、腎臓病、ホルモンの異常、睡眠時無呼吸症候群など、他の病気が原因で血圧が上がる「二次性高血圧」です。
二次性高血圧の場合は、原因となる病気を治療することで高血圧が治ったり、お薬を減らせる可能性があります。
そのため、諦めずに原因を探る検査が大切です。
特に、いびきや日中の強い眠気がある方は睡眠時無呼吸症候群の可能性も考慮し、ご相談ください。[1]
(詳しくは、「B. 二次性高血圧とは?原因と治療法」をご覧ください。今後順次アップロードしていきます。)
3. 高血圧のサインと受診の目安
「症状がない」ことが最大の特徴
繰り返しになりますが、高血圧の最大の特徴は「ほとんど症状がない」ことです。
そのため、ご自身では気づきにくく、健康診断などで初めて指摘される方が非常に多いのです [1]。
注意すべき症状とは?
ただし、血圧が著しく高い場合や、高血圧が原因で臓器に障害が起き始めている場合には、以下のような症状が現れることがあります。
これらの症状は、必ずしも高血圧だけが原因とは限りませんが、高血圧が関連している可能性も考えられます。
気になる症状があれば、早めに医師に相談しましょう [2]。
受診をおすすめする目安
以下のような場合は、「症状がないから」「忙しいから」と後回しにせず、ぜひ一度、医療機関を受診してください。
早期発見・早期対応が、あなたの未来を守る第一歩です。
4. なぜ治療で血圧コントロールが重要なのか ― データが示す未来
高血圧の治療は、将来の深刻な病気(心筋梗塞や脳卒中など)を防ぐために非常に大切です。
しかし、「どのように治療に取り組むか」、そして何よりも「その結果、血圧がどうなっているか」が、あなたの未来を大きく左右することが、信頼できる研究によって示されています。
米国の成人1万3千人以上を約19年間追跡した大規模な研究では、血圧の状態によって将来のリスクに以下のような大きな違いが出ることが明らかになりました [10]。
リスクの種類 | 高血圧を放置 (未治療) | 服薬中でも血圧が高い (目標値未達成) |
---|---|---|
脳卒中で亡くなるリスク | 約2.5倍 | 約3.0倍 |
心臓の病気で亡くなるリスク | 約1.7倍 | 約2.2倍 |
全ての原因による死亡リスク | 約1.4倍 | 約1.6倍 |
(研究の特性上、未治療の人と血圧の薬を飲んでいても血圧が高いままの人のどちらがより危険か、ということを単純に比較できるものではありませんが、いずれも非常にリスクが高い状態であることは間違いありません。)
最も重要な結論
そして最も重要なのは、お薬などで適切に治療し、血圧が目標値までしっかりとコントロールされている方は、死亡リスクが正常な血圧の方と比べて有意な差はなかった、という事実です! [10]
高血圧という『敵』と戦うためには、生活習慣の改善やお薬といった『武器』が必要です。
しかし、これらの武器を使っていても、敵(高血圧)に本当に効いているか(=血圧が目標値まで下がっているか)を確かめなければ、戦いは不利なままです。
特に「目標未達成」の状態は、武器を振るってはいるものの、敵には傷一つついていないのと同じ状況と言えるでしょう。
研究データが示すように、武器(治療法)をしっかり使いこなし、敵(高血圧)を抑え込んでいる(目標達成)状態にすれば、リスクは格段に減ります。
そのために不可欠なのが、ご家庭での血圧測定(家庭血圧)による『効果測定』です。
これによって、治療が本当に効果を上げているのかをきちんと確認し、その結果に基づいて医師が治療法を調整していくことができます。
ただお薬を飲んでいるだけでは、本当に敵に効いているかどうかは分かりません。
また、多くの場合、血圧のお薬は飲み始めてすぐに効果が実感できるものではなく、数週間から数カ月かけてゆっくりと調整を行っていくものですので、焦らずに服用を続けることが重要です。
そして、治療を続け、ご家庭での血圧が安定して目標値にコントロールできるようになれば、毎回の診察でお薬の処方日数を30日から徐々に長くしていくことも可能になり、通院のご負担を軽減することも目指せます。
治療効果を確認し、合併症の早期発見につなげるためには、症状がなくても定期的な検査(例えば半年に1回程度など)が推奨されます。
「採血せずに数年放っておいたら、知らないうちに腎臓が悪くなっていた」などといった事態を避けるためです。
(より詳しい検査については「C. 高血圧の検査について」をご覧ください。順次アップロードしていきます。)
5. 家庭血圧測定のすすめ ― あなたの本当の血圧を知る
高血圧治療において、ご自宅で血圧を測定する「家庭血圧測定」は非常に重要です。
なぜ「家庭血圧」がそんなに大切なの?
「毎月、病院で測っているから大丈夫」――そう思っていませんか?
月に1回の診察室での血圧は、1ヶ月(約720時間)のうちの、ほんの数分の記録に過ぎません。
その数分間の数値だけで、残りの大部分の時間の血圧の状態を正確に把握することは非常に難しいのです。
病院では緊張して血圧が上がってしまう「白衣高血圧」や、逆に病院では正常なのに自宅では高い「仮面高血圧」を見つけるためにも、家庭血圧の測定は欠かせません。
毎日の家庭血圧こそが、あなたの「本当の血圧」を知るための最も信頼できる情報であり、治療方針を決める上で最も重要な指標となります [1, 11]。
正しい測り方のポイント
正確なデータを取るために、以下のポイントを守りましょう [1]。
記録は最高の治療パートナー
測定した血圧値は、血圧手帳やスマートフォンのアプリなどに記録し、診察時には必ずお持ちください。
この記録は、治療効果の判定やお薬の調整に不可欠であり、血圧が安定すれば通院間隔の調整にも繋がる大切な情報となるのです。
(家庭血圧測定のより詳しい方法やコツについては、「E. 家庭血圧測定の詳細ガイド」をご覧ください。順次アップロードしていきます。)
6. 当院の高血圧診療の考え方
当院では、科学的根拠に基づき、患者さん一人ひとりに寄り添った高血圧診療を心がけています。
私たちは、医師が一方的に指示するのではなく、患者さんと「相談しながら一緒に進める治療」を目指しています。
どんな些細なことでもご相談いただき、一緒に治療を進めていくことを大切にしています。健康診断で指摘された方もお気軽にご相談ください。
まとめ:高血圧と賢く付き合い、未来の健康を守るために
高血圧は、症状がないからこそ放置されがちな病気ですが、確実にあなたの体を蝕んでいきます。
健康診断での指摘や、家庭での測定値が基準を超えていたら、それは「早めのケアを」という体からの大切なサインです。
しかし、高血圧は悲観する必要はありません。
生活習慣を見直し、必要に応じて薬の力を借り、そして何よりご自身の血圧に関心を持ち続けることで、そのリスクは十分にコントロールできる病気です。
血圧の治療は、マラソンのようなものです。長く、無理なく続けることが何よりも大切です。
当院では、あなたの伴走者として、最適なペース配分や戦略を一緒に考え、ゴール(健康長寿)までサポートします。
「ちょっと気になるな」と思ったその時が、受診のベストタイミングです。
どうぞ、お一人で悩まず、お気軽にご相談ください。
もっと詳しく知りたい方へ(詳細情報へのリンク)
高血圧について、さらに詳しい情報を知りたい方は、以下の各ページもぜひご覧ください。(現在準備中です。)
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参考文献・免責事項
参考文献
免責事項
この記事は、高血圧に関する一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。
健康に関するお悩みや症状がある場合は、必ず医師にご相談ください。