眠れない悩み、どうすれば?不眠症の原因と治療法
このような「眠れない」悩み、本当につらいですよね。
この記事でわかること
目次
「眠れないなら睡眠薬を飲めばいい」——そう考えるのは自然なことかもしれません。
しかし、その場しのぎで薬に頼るだけでは、根本的な解決にはならず、「薬がないと眠れない」という新たな不安を生む悪循環に陥ることも少なくないのです。
「たかが不眠」と軽視されがちですが、慢性的な不眠は、将来的にうつ病などの心の不調、さらには高血圧、糖尿病、認知症といった様々な病気の発症リスクを高めることもわかってきています [1]。
当院が目指すのは、単に薬で症状に“フタ”をするのではなく、眠れなくなった根本原因を一緒に見つけ、患者さんご自身の『眠る力』で解決していくお手伝いをすることです。
そのために、国際的な診療ガイドラインでも第一に推奨される認知行動療法(CBT-I)の考え方を治療の柱としています [2]。
「こんなことで受診しても…」とためらわずに、まずはご自身の状態を正しく知ることから始めてみませんか。
1. これって不眠症? 3つのポイントでセルフチェック
「最近よく眠れないから、自分は不眠症だ」と思われている方は少なくないかもしれません。
しかし、一時的な寝つきの悪さや睡眠不足と、医学的な治療が必要な「不眠症」は異なります。
ご自身の状態を正しく理解するために、まずは以下の3つのポイントをご確認ください。
ポイント1:夜間の睡眠の問題が「慢性的」に続いている
以下のいずれかの症状が、週に3回以上の頻度で、3ヶ月以上続いている状態です [3]。
ポイント2:日中の活動に「支障」が出ている
これが不眠症の診断において最も重要なポイントです。
夜に眠れないという事実そのものよりも、その結果として日中の生活にどれだけ影響が出ているかが問われます [4]。
ポイント3:眠るための「機会と環境」は十分にある
仕事や勉強が忙しくて意図的に睡眠時間を削っている「睡眠不足」の状態とは異なり、眠るための時間は十分にあるにもかかわらず、眠ることができない状態を指します [4]。
「時々眠れない日がある」だけでは、必ずしも病的な不眠症とは言えません。
上記の3つのポイントがすべて当てはまる場合に、医学的な治療の対象となる「慢性不眠症」と診断されます。
2. なぜ、あなたの不眠は続くのか? – 悪循環のメカニズムと原因
不眠症は、単一の原因で起こることは少なく、様々な要因が複雑に絡み合って発症し、慢性化すると考えられています。
ここでは、不眠が「クセ」になるメカニズムと、その具体的な原因について解説します。
① 不眠が「クセになる」メカニズム
不眠症の発症と慢性化は、多くの場合、以下の3つのステップで説明されます [5]。
きっかけとなったストレスが解消された後も不眠が続くのは、不眠に陥った時期に身につけてしまった「眠らなければ」という焦りや、「寝だめ」のような不適切な行動が、不眠の悪循環を生み出しているためです。
当院の治療では、この悪循環を断ち切ることを目指します。
② 不眠を引き起こす具体的な原因
不眠の原因は、大きく「環境」「体」「心」「生活習慣」の問題に分けられます。複数の原因が絡み合っていることも少なくありません。
【特に注意】不眠の裏に隠れた2つの病気
「眠れない」という症状の背景に、単なる不眠症ではなく、専門的な治療が必要な病気が隠れていることがあります。
特に「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」と「うつ病」は、見逃してはいけない重要な疾患です。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)
眠っている間に呼吸が止まったり浅くなったりすることを繰り返し、体が酸欠状態になることで睡眠の質が著しく低下する病気です。
【重要】
睡眠時無呼吸症候群(SAS)に気づかず安易に睡眠薬(特にベンゾジアゼピン系)を使用すると、呼吸をさらに抑制してしまい、無呼吸を悪化させる大変なリスクがあります。
当院では、これらの症状がある方にはスクリーニング検査を行い、SASの可能性を慎重に評価します。
うつ病
不眠はうつ病の最も代表的な症状の一つです。特に「朝早く目が覚めてしまう(早朝覚醒)」のは、うつ病のサインであることも少なくありません [12]。
うつ病が原因の不眠に対して、睡眠薬だけで対処しても根本的な解決にはなりません。
抗うつ薬など、うつ病そのものに対する適切な治療が必要です。
当院では、心の状態についても丁寧にお話を伺い、うつ病の可能性がないかを確認します。
3. 当院の治療のゴール:薬に頼らず「眠れる自分」を取り戻すために
当院では、不眠の原因を断ち切り、薬に頼りきりにならない生活を目指すことを治療のゴールと考えています。
そのために、国際的なガイドラインで最も強く推奨される治療法を治療の柱としています。
Step1:生活習慣の見直しから(睡眠衛生指導)
不眠治療の土台となるのが、睡眠に関する正しい知識を身につけ、生活習慣や環境を見直す「睡眠衛生指導」です [9]。
良い睡眠のための習慣
当院では、これらのポイントを分かりやすくまとめたオリジナルの資料をお渡しし、患者さん一人ひとりの生活に合わせて、具体的にどのような工夫ができるかを一緒に考えていきます。
Step2:考え方のクセを整える(認知行動療法:CBT-I)
「睡眠衛生指導」だけでは改善が難しい、より根深い不眠には、「認知行動療法(CBT-I)」という専門的なアプローチが非常に有効です。
これは、欧米のガイドラインで薬物療法よりも先に第一選択として推奨されている治療法です [2, 6]。
具体的には、以下のようなものが挙げられます。
【不眠を長引かせる「考え方のクセ」の例】
【不眠を長引かせる「行動パターン」の例】
CBT-Iでは、こうした一人ひとりのクセに光を当て、カウンセリングや行動のトレーニングを通して、より柔軟で健康的な睡眠習慣を再構築していきます。
CBT-Iの主なアプローチ
CBT-Iは、一度身につければ生涯にわたって使えるスキルとなり、不眠の再発予防にも繋がります [6]。
4. 睡眠薬との「上手な」付き合い方 – 補助的な役割と注意点
薬に頼らない治療で改善が見られない場合や、不眠による日中の支障が著しい場合に限り、補助的に薬の使用を検討します。
特に、長年広く使われてきたベンゾジアゼピン系の睡眠薬には、
漫然と長期使用することで効果が薄れたり(耐性)、
薬がないと不安になって眠れないと感じたり(依存)
といったリスクが指摘されています [7]。
特に高齢の方では、ふらつきによる転倒や、もの忘れ(認知機能)への影響も心配されています [8]。
当院では、こうしたリスクも十分に考慮し、不眠の訴えに対してすぐに睡眠薬(特にベンゾジアゼピン系)を処方することはせず、薬物療法を行う場合でも「必要最小限の種類と量を、短期間の使用にとどめる」ことを原則としています。
これは、現在世界的に標準的な治療の考え方でもあります。
睡眠薬の種類や、ベンゾジアゼピン系薬剤のリスクについてさらに詳しく知りたい方は、こちらのページをご覧ください。
→『睡眠薬との付き合い方 ―特にベンゾジアゼピン系薬剤について―』へのリンク (準備中)
5. よくあるご質問(FAQ)
Q. 市販の睡眠改善薬を試してみましたが、あまり効きません。
A. 市販の睡眠改善薬の主成分は、風邪薬などにも含まれる抗ヒスタミン薬です。
一時的な軽い不眠には効果があるかもしれませんが、慢性的な不眠症に対する有効性は確立されていません [8]。
また、使い続けると効果が薄れる(耐性)こともあります [10]。
症状が続く場合は、自己判断で続けずに医師にご相談ください。
Q. 高齢で、あまり薬は飲みたくありません。
A. ご心配はもっともです。
高齢の方は、薬の副作用(特にふらつきによる転倒・骨折)が出やすいため、睡眠薬の使用はより慎重に行うべきです。
そのため、国際的なガイドラインでも、高齢の方の不眠症治療にはまず認知行動療法(CBT-I)などの薬を使わない治療が強く推奨されています [5]。
当院でも安全性を最優先し、薬に頼らないアプローチを基本としていますので、安心してご相談ください。
Q. 睡眠薬は一度飲み始めると、やめられなくなりますか?
A. すべての睡眠薬がそうではありません。
確かに、一部の薬剤(特にベンゾジアゼピン系)には依存性があり、漫然と使用を続けるとやめにくくなることがあります [7]。
しかし、医師の指導のもと、適切な薬剤を、必要な期間だけ使用し、出口(やめ方)までを計画することで、安全に中止することが可能です。
当院では依存性の少ない新しいタイプの薬剤を優先的に検討するなど、出口戦略を常に見据えた処方を心がけています [11]。
6. まとめ:根本的な解決を目指して、まずはお気軽にご相談を
不眠の悩みは、日中のパフォーマンスを低下させるだけでなく、心や体の健康にも深く関わっています。
放置することで、より深刻な病気につながる可能性も指摘されています。
最も大切なのは、不眠の訴えに対してすぐに睡眠薬で対処することではありません。
なぜ眠れないのか、その根本的な原因を断ち切り、薬に頼りきりにならない生活を目指すことです。
「眠れないのは歳のせい」「ストレスがあるから仕方ない」と諦めてしまう前に、ぜひ一度、当院にご相談ください。
私たちと一緒に、より良い眠りと健康な毎日を目指して、一歩を踏み出しましょう。
7. ご予約・お問い合わせ
不眠に関するご相談や診察をご希望の方は、お電話またはウェブサイトの予約システムからご予約ください。(準備中)
参考文献
免責事項
本ウェブサイトに掲載する情報は、一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の症状に対する診断や治療を約束するものではありません。
実際の診断・治療に際しては、必ず医師の診察を受けてください。