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不眠症:睡眠薬との付き合い方

睡眠薬との付き合い方 ―特にベンゾジアゼピン系薬剤について―

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はじめに:こんなお悩み、ありませんか?(患者さんの声)

  • 「毎日睡眠薬を飲んでいるのに、最近ぜんぜん効いている気がしない…
  • 「薬がないと眠れないのが当たり前になっていて、このままでいいのか不安…」
  • 「だんだん薬の量が増えてきてしまった。いつかやめられるんだろうか…」
  • 「薬のせいで日中も頭がぼーっとする。でも、やめるのは怖い…」

もしあなたが、このようなお悩みを抱えながら睡眠薬を服用しているなら、この記事がきっとお役に立てるはずです。


メインページでは、不眠症治療の基本が薬だけに頼るものではないとお伝えしました。

しかし、どうしても症状がつらい時には、睡眠薬が大きな助けとなることも事実です。

大切なのは、薬を「魔法の解決策」と考えるのではなく、その効果と注意点を正しく理解し、適切に付き合っていくこと。

このページでは、睡眠薬、特にこれまで広く使われてきた「ベンゾジアゼピン系薬剤」を中心に、皆さんに知っておいていただきたい大切な情報をお伝えします。

この記事でわかること

  • 睡眠薬の主な種類とその作用の仕組み
  • なぜベンゾジアゼピン系薬剤の使用には注意が必要なのか(依存・副作用のリスク)
  • 当院が睡眠薬の処方に慎重な理由と、安全性を重視した処方方針
  • 依存性の少ない、新しいタイプの睡眠薬という選択肢
  • 現在服用中の薬を安全に減らし、やめていくための方法

このページの目次

1. 睡眠薬にはどんな種類があるの?

現在、不眠症の治療に用いられる主な睡眠薬は、脳への作用の仕方によって、大きく3つのタイプに分けられます [8]。

① 脳の活動にブレーキをかける薬(GABA受容体作動薬)

脳の興奮を鎮める「GABA(ギャバ)」という物質の働きを強め、脳全体の活動を落ち着かせることで眠気を誘います。

効果を実感しやすい反面、注意すべき点も多い薬です。

  • ベンゾジアゼピン(BZD)系睡眠薬
    ブロチゾラム(レンドルミン®)、フルニトラゼパム(サイレース®)、エチゾラム(デパス®)、トリアゾラム(ハルシオン®)など、多くの種類があります。
  • 非ベンゾジアゼピン(非BZD)系睡眠薬
    ゾルピデム(マイスリー®)、エスゾピクロン(ルネスタ®)など。「Z薬(ゼットドラッグ)」とも呼ばれます。

② 脳の“覚醒スイッチ”をオフにする薬(オレキシン受容体拮抗薬)

脳を「起きろ!」と目覚めさせる「オレキシン」という物質の働きを邪魔することで、脳の過剰な興奮状態を鎮め、自然な眠りへと導きます。

比較的新しいタイプの薬で、依存などのリスクが低いのが特徴です。

代表的な薬剤: スボレキサント(ベルソムラ®)、レンボレキサント(デエビゴ®)

③ 体内時計を整える薬(メラトニン受容体作動薬)

「夜になったら眠くなる」という体のリズムを整えるホルモン「メラトニン」に働きかけ、自然な眠気を促します。


代表的な薬剤: ラメルテオン(ロゼレム®)

2. ベンゾジアゼピン(BZD)系薬剤について知っておきたいこと

BZD系薬剤は、長年にわたり不眠や不安の治療に広く使われてきました。

しかし、その一方で、漫然と長期間使用することには様々なリスクがあることが分かっており、世界的にその使用は見直されています [7, 8]。

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長期使用による3つの大きなリスク

耐性:だんだん効きにくくなる

同じ量を飲み続けているのに、「最近効きが悪くなった」と感じる状態です。

薬に体が慣れてしまい、以前と同じ効果を得るために、より多くの量が必要になることがあります [7]。

依存:「薬がないと眠れない」という状態

医師の指示通りに服用していても、長期間使用することで「薬がないと眠れないのでは」という強い不安にかられたり(精神的依存)、実際に薬が切れると不快な症状が出たりする(身体的依存)ため、やめられなくなる状態です。

これを「常用量依存」と呼びます [11, 14]。

離脱症状:急にやめると、つらい症状が…

自己判断で急に薬をやめると、体がびっくりして様々なつらい症状が出ることがあります。

以前よりひどい不眠(反跳性不眠)をはじめ、強い不安感、イライラ、頭痛、吐き気、手の震えなどが代表的です [7, 11]。

このつらい経験が、「やっぱり薬は手放せない」という思い込みを強めてしまうのです。


特に注意すべき副作用

転倒・骨折

薬の作用でふらつきやすくなるため、転倒のリスクが高まります。

特に高齢の方では、夜間のトイレの際に転倒し、大腿骨などを骨折してしまうことは、寝たきりにつながる非常に大きな問題です [8]。

認知機能への影響

もの忘れをしやすくなったり、日中の集中力が低下したりすることがあります。

長期的な使用が、将来の認知症のリスクを高める可能性を指摘する研究報告もあります [1]。

3. 当院の処方方針:なぜ「すぐに薬を出さない」のか

これまで述べたようなリスクから、現在、欧米の主要な診療ガイドラインでは、不眠症治療の第一選択としてBZD系薬剤を推奨していません [2, 8]。

日本のガイドラインでも同様に、これらの薬剤の漫然とした長期使用を避けるよう呼びかけています [9]。


この世界的な標準治療の考え方に基づき、当院では以下の基本方針で診療にあたっています。

  • 治療の主役は、薬ではなく、あなた自身です。私たちの目標は、不眠の原因となっている生活習慣や考え方のクセを一緒に見つけ、薬に頼らなくても「眠れる自分」を取り戻していただくことです。
  • 安易な処方は行いません。患者さんの安全を第一に考え、BZD系薬剤を初診でいきなり処方したり、他の薬で十分な効果が得られる可能性があるのに安易に選択したりすることはありません。
  • 処方する場合は、出口戦略を一緒に考えます。薬物療法が必要な場合でも、漫然と続けることはしません
    「いつ、どのようにして薬を減らしていくか」という“出口”を見据えながら、短期間の使用を原則とします。 

4. 当院が考える「はじめの一歩」としての睡眠薬

薬物療法を検討する際、当院では可能な限りリスクの少ない新しいタイプの睡眠薬を第一選択としています。

  • オレキシン受容体拮抗薬(デエビゴ®、ベルソムラ®など)
  • メラトニン受容体作動薬(ロゼレム®など)

これらの薬剤は、BZD系薬剤のような依存やふらつきのリスクが低いとされています [8]。

効果の出方は比較的マイルドかもしれませんが、安全性が高く、薬に振り回されることなく不眠を改善していくことが期待できます。

5. 今、睡眠薬を飲んでいる方へ ― 減薬・中止という選択肢

この記事を読んで、「今飲んでいる薬をやめたい」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

そのお気持ちは、不眠治療における非常に大切な一歩です。

【最重要】ご自身の判断で薬を急にやめないでください!

長期間服用していた薬を自己判断で急にやめると、強い反跳性不眠や離脱症状が現れ、非常につらい思いをすることがあります。

減薬や中止は、必ず医師の管理のもと、安全な計画に沿って行う必要があります。

当院の減薬・中止サポート


当院では、睡眠薬からの卒業を目指す方々を積極的にサポートしています。

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  • 段階的な減薬プラン:患者さんの状態や薬の種類、服用期間などを考慮し、無理のないペースで少しずつ薬を減らしていく計画を一緒に立てます。
    あくまでも患者さんの状態や要望に合わせて、焦らずに取り組んでいきます。
  • 認知行動療法(CBT-I)の考え方を取り入れたサポート:薬を減らしていく過程で生じる不眠や不安に対しては、専門的な心理療法である認知行動療法の考え方を取り入れたサポートを行うことが非常に有効です。
    例えば、ご自身の睡眠を見直すための睡眠日誌の活用や、不眠につながる考え方のクセを修正するお手伝いをすることで、薬だけに頼らず「眠る力」を育て、よりスムーズで安全な減薬・中止を目指します。
    これが研究でも効果が示されている方法です [6]。 

「もう薬に頼りたくない」「このまま飲み続けていいのか不安」——。

そのようなお気持ちを、ぜひ私たちにお聞かせください。一緒に解決策を探していきましょう。

6. 睡眠薬に関するよくあるご質問(FAQ)

Q. 他の病院でいつも飲んでいる薬を、初診で同じように処方してもらえますか?

A. 大変申し訳ありませんが、当院では、初診の患者さんに対して、これまでの詳しい診療情報がないまま、いきなり睡眠薬(特にベンゾジアゼピン系)を処方することは原則として行っておりません
これらの薬剤には、依存や転倒などのリスクがあり、患者さんの過去の治療経過や現在の状態を正確に把握せずに処方することは、医療安全の観点から極めて慎重になるべきだと考えているためです。
また、残念ながら、複数の医療機関を受診して同様の薬剤を重複して処方されることで、過量服薬や健康被害につながるケースも報告されています。

当院では、こうした問題を防ぎ、適正な処方を徹底するためにも、このような方針をとっております。

継続的な処方をご希望の場合は、可能であれば、現在かかりつけの医師からの診療情報提供書(紹介状)をご持参いただけますようお願いいたします。

Q. 他の病院ではすぐに薬を出してくれたのに、どうしてこちらではすぐに出してくれないのですか?

A. 当院では、目先の不眠症状を和らげることだけでなく、長期的な視点での安全性と健康リスクを最小化することを重視しています。
ベンゾジアゼピン系薬剤の長期使用に伴うリスクが明らかになっている以上、安易な処方はせず、まずは薬に頼らない治療法を検討することが、国際的な標準治療の考え方です。
患者さんに十分な情報を提供し、ご納得いただいた上で治療を進めることを大切にしています。

Q. 毎日0.5錠しか飲まないので、処方箋は「1日1錠」で30日分出してもらって、実質60日間使いたいのですが。

A. お気持ちは理解できますが、このような処方は保険診療のルール上、認められておりません
実際に服用する量と処方する量が異なることは、適正な医療の観点から問題があります。
当院では、法令を遵守し、患者さん一人ひとりにとって安全で適切な処方を心がけておりますので、ご要望にお応えすることはできません。
どうかご理解いただけますようお願い申し上げます。

Q. 睡眠薬は一度飲み始めると、本当にやめられなくなるのでしょうか?

A. すべての睡眠薬がそうではありません。
確かに、一部の薬剤(特にベンゾジアゼピン系)には依存性があり、漫然と使用を続けるとやめにくくなることがあります。
しかし、医師の指導のもと、必要な期間・適切な量で使用し、薬を使い始める段階から「いつ、どのようにしてやめていくか」という出口戦略をきちんと計画することで、安全に使用し、スムーズに中止することも可能です。

当院では、このようなリスクも十分に考慮し、薬物療法を行う場合でも「必要最小限」にとどめることを基本方針としています。


睡眠薬や不眠に関するお悩み、ご相談ください

当院では、患者さん一人ひとりの状況を丁寧に伺い、最適な治療法を一緒に考えていきます。
薬に関する不安や疑問、減薬のご希望など、どんなことでもお気軽にご相談ください。

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参考文献

  1. UpToDate. Risk factors, comorbidities, and consequences of insomnia in adults. (Accessed on June 26, 2025)
  2. Morin CM, Buysse DJ. Management of Insomnia. N Engl J Med. 2024;391(3):247-258.
  3. American Academy of Sleep Medicine. International Classification of Sleep Disorders, 3rd ed, text revision. Darien, IL 2023.
  4. UpToDate. Evaluation and diagnosis of insomnia in adults. (Accessed on June 26, 2025)
  5. UpToDate. Overview of the treatment of insomnia in adults. (Accessed on June 26, 2025)
  6. UpToDate. Cognitive behavioral therapy for insomnia in adults. (Accessed on June 26, 2025)
  7. Soyka M. Treatment of Benzodiazepine Dependence. N Engl J Med. 2017;376(12):1147-1157.
  8. UpToDate. Pharmacotherapy for insomnia in adults. (Accessed on June 26, 2025)
  9. 三島和夫, 編. 睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン. じほう; 2014.
  10. 松井健太郎. 眠りのメェー探偵 睡眠薬の使い方がよくわかる. 金芳堂; 2023.
  11. 高江洲義和, 稲田健, 編. 睡眠薬・抗不安薬のエキスパートコンセンサス. 新興医学出版社; 2023.
  12. 内藤宏. 不眠症を診たら精神疾患を疑え!. 治療. 2019;101(9):1044-1047.
  13. 野村敦彦, 塩見利明. 不眠症を診たら身体疾患を疑え!. 治療. 2019;101(9):1048-1053.
  14. 松本俊彦. なぜベンゾジアゼピンが問題なのか?. 治療. 2019;101(9):1091-1094.

免責事項

本ウェブサイトに掲載する情報は、一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の症状に対する診断や治療を約束するものではありません。

実際の診断・治療に際しては、必ず医師の診察を受けてください。

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