「5類になったのに、なぜまだ対策が必要なの?」
「結局、インフルエンザと何が違うの?」
2023年5月に「5類」へ移行し、社会の制度は大きく変わりました。
しかし医療現場では、制度の変更と、感染症としての性質を切り離して考えています。
この記事では、最新の知見に基づき、この感染症が今も重要な課題である理由を解説します。
あわせて、地域の皆様を支える当院の具体的な診療方針と、もし感染した際の過ごし方をお伝えします。
新型コロナ(SARS-CoV-2)は、従来のインフルエンザとは異なるいくつかの特性を持っていました。
コロナウイルス自体は古くからある「風邪」の原因の一つですが、SARS-CoV-2は肺炎だけでなく、全身の炎症、心筋障害、血栓症など、多様な合併症を引き起こし得ることがわかっています[6, 7, 16, 17]。
また、急性期を過ぎた後も、倦怠感や思考力の低下といった後遺症(Long COVID)が持続する場合があることも重要な特徴です[20]。
流行初期、人類は誰もこのウイルスに対する免疫を持っていませんでした。
そのため、爆発的なスピードで流行が拡大しました[5]。
現在はワクチンや感染経験により免疫を持つ人が増えましたが、ウイルスは免疫を回避する変異を繰り返しており、依然として警戒が必要です[2, 23]。
初期の研究では、二次感染の約44%が発症前の無症状の時期の人から起きていたと報告されています[4]。
初期から指摘されているように、症状が出る前から感染が起こり得る点は、流行を抑えるうえでの難しさの一つです[2, 4, 23]。
そもそも医療とは、社会全体で支え合っている、限りある大切な資源です。
限りある資源である以上、どこかで過剰に消費されれば、必ず別の場所でそのしわ寄せが生じます。
以前の流行時には、それが「超過死亡」という形で現れました。
また、こうした資源は、困ったときに突然増やすことはできません。
理想的には、いつでも誰でも待ち時間ゼロで最高の医療を受けられるのが一番です。
しかし、医療費や医療従事者の数、病床数には物理的な限界があります。
平均的な重症化率が下がっても、高齢の方や心臓・肺・腎臓などの持病がある方、あるいは抗がん剤治療中、免疫抑制薬を使用中の方にとっては、このウイルスへの感染は今もなお、命に関わり得る重大な事態です。
こうした重症化しやすい患者さんが増えることは、入院病床や人工呼吸器といった貴重な医療資源をより多く必要とすることを意味します[1, 8, 9, 21]。
病院の余裕がなくなると、重症患者の死亡率が上がることがデータで示されています。
これは個人の体力とは無関係に、現場の混雑状況という外的要因によって、助かる確率が変わってしまう可能性を意味します。
つまり、個人の感染対策が不十分で病院が溢れてしまえば、本来助かるはずの命も失われてしまうのです[10]。
コロナ禍から数年が経過し、「次はもう万全の体制で迎えられるはずだ」と思われるかもしれません。
しかし、医療には人員、設備、機器といった物理的な限界が常に存在します。
感染爆発にいつでも耐えうるほどの「余剰」を常に抱えておくということは、流行していない時期からも多額の医療費を投じ続ける必要があることを意味します。
また、感染症が大流行している最中であっても、がんや心筋梗塞といった他の深刻な病気が減ってくれるわけではありません。
限られたリソースの中で、いかに「入院が必要な重症者」を減らすかが、地域医療全体を守る鍵となります。
このように、医療資源は有限であり、一度に提供できる量には限界があります。
したがって、この資源を無駄なく、賢く大事に利用していく必要があります。
当院では、それは高リスクの方に対するワクチン接種こそが該当すると考えます。
多くの研究により、あらかじめワクチンで重症化を防ぐことは、重症化してから入院治療などを行うよりも、結果として社会全体にかかる費用や負担を抑える効果が高いことが明らかになっています[11, 13, 14, 15]。
こうした予防の徹底は、昨今問題となっている「社会保障費の増大」の抑制にもつながる、持続可能な医療体制を維持するための重要な鍵であると考えています。
超過死亡とは、例年の傾向から予測される人数をどれだけ上回ったかを示す指標です。
2020年、日本の超過死亡はマイナス1.67%(例年より死者が少ない)でした。
つまり、新型コロナウイルスが社会問題となり始めたタイミングで、皮肉にも国民全体の死亡率が減少したということを意味しています。
もちろん、これは新型コロナウイルスそのものが死亡率を下げたということではありません。
当時は国内の累計感染者数自体がまだ非常に少なかったことに加え、感染対策の徹底や、少しの体調不良でも早めに病院を受診したことで、持病の悪化が未然に防がれたことが一因ではないかと考えられています[3]。
一方、2022年には超過死亡がプラス7.55%(過去最高値)へと急増しました[3]。
これは、もし新型コロナのパンデミックがなければ亡くならずに済んだ可能性のある方が、国内だけで年間11万人以上にのぼったことを意味しています。
ここで重要なのは、たとえウイルスの性質が変化(弱毒化)し、一人ひとりの重症化リスクが下がったとしても、感染する人の母数(総数)が圧倒的に多くなれば、結果として亡くなる方の総数は増えてしまうという事実です。
感染そのものによる直接的な死だけでなく、感染をきっかけに心臓や肺、腎臓などの基礎疾患(持病)が連鎖的に悪化して亡くなる方が膨大な数に上ったことが、過去最高値を記録した主な原因と考えられています。
つまり、「ウイルスが弱くなったから安心」という単純な話ではないのです[3, 23]。
たとえ個人が軽症で済んだとしても、社会全体で感染母数が増えれば医療は麻痺します。
「不慮の事故で怪我をしたのに、救急外来が混み合っていて処置が遅れる」といった事態は、誰にでも起こり得る不利益なのです。
「5類になった=軽い病気になった」というのは、実は大きな誤解です。
5類移行とは、公費支援のあり方や入院勧告といった「行政上の枠組み」が変わったことを意味します。
ウイルスの感染力や、感染症としての性質が、制度変更とともに魔法のように消えたわけではありません。
そもそも感染症法上の分類は、決して病気の「重症度ランキング」ではありません。
この分類は、社会としてその感染症の蔓延をどう防ぐかという「対策のあり方」に基づいています。
例えば、3類感染症は主に食中毒などの衛生管理が重要なもの、4類は動物や昆虫が媒介するため環境対策が必要なものが中心です。
また、同じ5類感染症には、適切な治療継続が不可欠なHIV感染症や、発症すると致死率がほぼ100%とされるクロイツフェルト・ヤコブ病なども含まれています。
つまり、5類に分類されていることは、決して「医学的に軽い病気である」という証明にはならないのです。
さらに、「5類になったから、どこの医療機関でも一律に診療できるようになる」というわけでもありません。
診療ができるかどうかは、分類に関わらず、あくまでその医療機関が備える物理的な設備や人員の体制に依存します。
制度上の名前が変われば万事解決、という単純な問題ではありません。
行政の公的な介入が減った今だからこそ、個人や医療機関による現実的な備えの重要性はむしろ高まっています。
ワクチン接種(重症化を未然に防ぐ「防火対策」):
当院では学会の提言に基づき、個人の健康と地域の医療体制を守るため、最新の流行株に対応したワクチンの接種をお勧めしています。
当院が特に接種をお勧めする方(重症化リスクの高い方)
上記に当てはまらない方でも、生活背景やご希望に応じて接種を検討するケース
接種のメリット(重症化予防効果)とデメリット(副反応や費用など)を踏まえて、個別にご相談ください。
ワクチンはどれくらい役に立ったのか(データ)
ワクチンの主な役割は、感染を完全にゼロにすることよりも、重症化や死亡を減らすことにあります。
実際、日本でも複数のモデル研究で、ワクチン導入により死亡が大きく減った可能性が示されています。
このように、ワクチンは重症化・入院・死亡を減らすという意味で、公衆衛生上のインパクトが大きかったと考えられます。
当院が高リスクの方への接種を重視するのは、この「重症化を減らして医療を守る」効果が最も大きい層が明確だからです。
ワクチンは、火事に例えるなら「防火対策」に相当します。
重症化や入院を減らすことは、ご本人を守るだけでなく、救急や入院病床といった限りある医療資源を守り、地域全体の医療体制を維持するうえでも重要です[2, 10, 11, 13, 14]。
ワクチンは、重症化の確率を下げ、医療逼迫を避けるための最も基本的な備え(重症化予防の土台)と位置づけています[2, 11, 13, 14, 19]。
抗ウイルス薬(発症後の重症化を抑える「消火活動」):
重症化リスクの高い方で、万が一感染した場合に、早期に病状の悪化を抑え込むための補助的手段です[1, 18, 21]。
これは火事に例えるなら、起きてしまった火を早期に抑え込む「消火活動」に相当します。
抗ウイルス薬は、あくまで早期に病状を抑えるためのものであり、ワクチン(防火対策)と組み合わせて備えることが重要です[1, 18, 21]。
当院では、院内感染対策として以下の取り組みを行っております。
院内感染防止のため、一般の診療エリアとは独立したルートを設けています。
一般の患者様との接触を最小化できる設計にしております。
受診に不安がある方は事前にご相談ください。
診察時には、最新の診療指針に基づき、重症化のリスク因子(65歳以上、心血管疾患、糖尿病、肥満等)を詳細に確認します。
あわせて、直近1年以内のワクチン接種歴や感染歴を必ず確認します。
これらは現在の免疫状態を推測し、抗ウイルス薬による治療がどの程度必要かを判断するうえで極めて重要な情報となるからです。
その上で、循環器専門医として持病への影響を考慮した最適な方針を検討します。
当院では、外来での診療を滞らせず、必要な方に必要な医療を届けるため、迅速抗原検査を基本として行っています。
PCR検査は感度が高い一方で、検査工程や結果判定に伴う時間的・運用上のコストが大きく、外来で一律に実施すると、待ち時間の増加や診療枠の圧迫、患者様の費用負担の増加につながります。
私たちは、限られたリソースの中でより多くの方に適切な診察を提供することを優先しています。
当院では「検査を増やすこと」自体を目的にせず、重症化リスク評価と診察所見を踏まえて、治療や経過観察の方針決定に必要十分な検査を選択します。
なお、初回の抗原検査が陰性でも臨床的に感染が強く疑われ、かつ重症化リスクが高い場合には、翌日の再検査や経過観察の強化、必要に応じてPCR検査が可能な医療機関への紹介を検討します。
このように対象を絞って重点的に対策を行うことは、無駄な医療費を抑え、社会保障費増大の抑制(医療資源の節約)にもつながると考えて診療にあたっています。
当院では、主に以下の3点を重点的に確認し、総合的に重症化リスクを評価しています。
明確な数値基準があるわけではありませんが、診察時の状況からリスクがある程度高いと判断した場合には、速やかに抗ウイルス薬の使用について患者様とご相談させていただきます。
一方で、医学的に重症化リスクが高くないと判断される患者様に対して、これら高額な薬剤を一律に処方することはありません。
あらかじめご了承ください。
以下は薬剤費のみの目安であり、薬価改定や調剤料等により変動します。
| 薬剤名 | 特徴 | 3割負担時の薬剤費(約) |
|---|---|---|
| パキロビッド | 指針上、重症化リスクが高い方で第一選択肢となる薬の一つ | 約30,000円 |
| ラゲブリオ | 併用薬の制限が少なく高齢者に使いやすい | 約26,000円 |
| ゾコーバ | 主に低~中等度リスク者向け(症状早期改善) | 約15,000円 |
※抗ウイルス薬は高額になり得るため、当院では最新の指針に基づき、重症化リスクを厳密に評価した上でご提案しています。
※パキロビッド処方時は、専用システムを用いて服用中のお薬との飲み合わせを一つずつ確認し、安全性を担保しています。
必要に応じて、発熱や喉の痛み、咳などの症状を和らげるためのお薬を処方します。
処方例
カロナール(解熱鎮痛)、デキストロメトルファン(咳止め)、カルボシステイン(去痰)、トランサミン(喉の炎症)、SPトローチなど
これらはウイルスを直接退治するものではありませんが、療養中のつらさを軽減し、体力の消耗を抑える目的などで用いることがあります。
医師の判断のもと、患者様の症状に合わせて選択します。
国の周知資料や診療指針に基づく目安として、発症日を0日目として5日間、かつ症状が軽快してから24時間が経過するまでは外出を控えることが推奨されています。
また、発症から10日間は、周囲の方への感染拡大を防ぐためマスクの着用や手洗いの徹底が求められます[1, 2, 21]。
以下のような症状が出た場合は、重症化や心不全などの合併症の兆候かもしれません。
すぐに当院へお電話いただくか、救急要請を検討してください[1, 18, 21]。
当院の役割は、単に目の前の病気を診るだけではありません。
当院としては、65歳以上の方や基礎疾患などで重症化リスクが高い方へは、学会提言に沿ってワクチン接種を強く推奨しています。
それ以外の方についても、これまで一度も免疫を獲得していない方や、背景に応じて個別に相談の上、接種を検討いただけます。
また、国内外のデータから、ワクチン接種は多くの命を救う大きな効果があったことが示されています[25, 26, 27]。
参考文献
免責事項
この記事は情報提供を目的としており、個別の診断に代わるものではありません。
ご自身の健康状態については、必ず医師にご相談ください。