心室期外収縮の診断と治療
「胸が”ドキッ”とする」「脈が一瞬飛ぶ、抜ける感じがする」。
このような症状があると、「もしかして心臓が悪いのでは…」と不安になりますよね。
その症状は「(心室)期外収縮」という、もっともありふれた不整脈の一つかもしれません。
期外収縮は多くの人が経験するものです。
ほとんどの場合は心配いりませんが、中には注意が必要なケースも隠れています [1]。
この記事では、期外収縮の中でも「心室期外収縮」について解説します。
原因や症状、検査、治療、そして日常生活での付き合い方まで、分かりやすくお伝えします。
この記事のポイント
心室期外収縮の正体
私たちの心臓は、1日に約10万回、規則正しく拍動しています。
このリズムは、心臓の右上にある「洞結節(どうけっせつ)」という場所が作っています。
洞結節がいわば”発電所”となり、電気信号を規則的に発信して心臓全体に伝えているのです。
心室期外収縮とは、この正規のルートとは別に発生する不整脈です。
心臓の中の「心室」というお部屋から、予定より少し早く”フライング”で異常な電気信号が出てしまいます。
このフライングによって、心臓は一瞬、本来のリズムから外れて収縮します。
そのため、「ドキッ」とした動悸や脈が飛ぶ感覚として自覚されるのです [2]。
こんな症状はありませんか?心室期外収縮のサイン
心室期外収縮が起こると、人によって様々な症状を感じます。
一方で、全く自覚症状がないこともあります。健康診断の心電図検査で、初めて指摘される方も非常に多くいらっしゃいます [1]。
なぜ起こる?考えられる原因
心室期外収縮は、大きく分けて2つのタイプがあります [1]。
特発性(とくはつせい)
心臓そのものには特に病気がなく、原因がはっきりしないタイプです。
こちらが大多数を占めます。
誘因となりうるもの:
器質性(きしつせい)
心臓に何らかの病気が隠れていて、それが原因で起こるタイプです。
背景にある心臓の病気の例:
多くは心臓に病気がない「特発性」です。
過度な心配は不要ですが、安心のために一度きちんと検査を受けておくことをお勧めします。
心室期外収縮の詳しい原因とメカニズム
心室期外収縮が起こる仕組みは専門的ですが、分かりやすく言うと「異常な電気の火種」や「電気の空回り」が心室のどこかで起きている状態です [2]。例えば、心筋梗塞の後にできた心臓の傷跡(瘢痕)や、心不全で引き伸ばされた心筋は、このような異常な電気信号が発生しやすい場所になり得ます [1, 7]。
心臓に病気がないのに起こる理由(特発性)
心臓に病気がなくても期外収縮は起こります。
その主な理由の一つに、自律神経の働きが関係しています。
自律神経には、体を活動的にする「交感神経(アクセル)」と、リラックスさせる「副交感神経(ブレーキ)」があります。
よく「自律神経が乱れる」と言われますが、これはストレスや疲労などによって、交感神経が過剰に刺激された状態です。
その結果、心筋が興奮しやすくなり、期外収縮の”火種”に繋がることがあります [2]。
心臓の病気が原因となる場合(器質性)
心筋梗塞や心筋症、弁膜症といった病気があると、心臓の筋肉にダメージが加わったり、通常とは違う負荷がかかったりします。
これにより心筋の性質が変化し、異常な電気信号を発生させる原因となります [7]。
その他(電解質異常や薬剤性など)
心臓の筋肉は、血液中のミネラル(電解質)のバランスにとても敏感です。
カリウムやマグネシウムのバランスが崩れることでも、期外収縮は起こりやすくなります。
また、他のお薬の副作用として出現することもあります [1]。
危険なサインは?受診を考えるべきタイミング
症状の強さと、不整脈の危険度は必ずしも一致しません。
「症状が強いから危険」「症状がないから大丈夫」とは一概に言えないのが、この不整脈の特徴です [5]。
ただし、以下のようなサインがある場合は、放置せずに一度循環器専門医に相談することをお勧めします [1, 3]。
これらの症状は、より注意深い検査が必要なサインかもしれません。
ご自身の判断で様子を見ずに、お気軽に当院へご相談ください。
心室期外収縮の検査と治療
診断と方針決定までの流れ
まず、丁寧にお話を伺うこと(問診)が最も重要です。
症状の具体的な内容、いつ・どんな時に起こるか、生活習慣、これまでのご病気などを詳しくお聞きします。
その上で、必要な検査を組み合わせて診断し、治療方針を決定します。
心室期外収縮を詳しく調べるための検査
12誘導心電図検査
まず行う基本的な検査です。心臓の電気活動の基本情報を確認します。
費用の目安(3割負担):約390円
24時間ホルター心電図検査
小型の心電計を身につけ、日常生活での不整脈の頻度や危険性を評価します [4]。(より長期間記録するタイプもあります)
費用の目安(3割負担):約4,500円
心エコー(心臓超音波)検査
心臓の形や動きを直接観察し、背景に心臓の病気がないかを確認するための重要な検査です [1]。
費用の目安(3割負担):約2,640円
血液検査
甲状腺の病気やミネラルバランスの乱れ、体内の炎症など、隠れた原因がないかを調べるために行います。
費用の目安(3割負担):約1,500円~3,000円(検査項目によります)
治療を検討するのはどのような場合?
心室期外収縮は、多くの場合、治療の必要がない良性の不整脈です。
しかし、患者さんの状況によっては、治療を積極的に検討する必要があります。
ガイドラインでは、主に以下のような場合に治療が推奨されています [3, 9, 10]。
期外収縮の頻度は少なくても、強い症状で生活に支障が出る場合があります。
例えば、「ドクン」という動悸が気になって仕事に集中できない、不安で眠れないなどです。
このように生活の質(QOL)が著しく下がっている場合は、症状を和らげる治療の良い適応となります [10]。
自覚症状がほとんどなくても、注意が必要な場合があります。
24時間ホルター心電図検査で、期外収縮が全心拍数の10〜20%以上を占める場合です [9]。
この状態が長期間続くと、心臓が疲弊してポンプ機能が低下することがあります。
これを「心室期外収縮誘発性心筋症」といい、心不全の一種です [5]。
心機能の低下を予防・改善する目的で治療を行います。
もともと心臓にご病気がある場合、心室期外収縮の原因となることがあります。
心室頻拍や心室細動といった、より危険な不整脈に繋がる可能性もあるのです [7]。
この場合は、原因となっている病気の治療をしっかりと行うことが最も重要です。
心室期外収縮の治療法
上記の治療適応を踏まえ、具体的な治療法を選択します。
治療の基本:経過観察と生活習慣の改善
背景に別の心臓病が特に認められず、期外収縮の症状も頻度もそれほど多くない場合、特に治療を必要としません。
その上で、原因となりうる生活習慣(ストレス、睡眠不足、カフェイン、アルコールなど)の改善を目指します。
お薬による治療(薬物療法)
主に症状を和らげる目的、または頻度の多い期外収縮を減らす目的で行います。
β遮断薬や抗不整脈薬などが用いられますが、副作用の可能性もあるため、医師による慎重な管理が必要です [3, 10]。
根本治療を目指す:カテーテルアブレーション
お薬を使っても動悸が改善しない場合や、期外収縮の頻度が減らない場合はカテーテルアブレーション治療を検討します [3, 6]。
足の付け根の血管から細い管(カテーテル)を心臓まで進め、不整脈の原因となっている”異常な火種”を直接、高周波で治療します [8]。
当院では、アブレーション治療が必要な患者さんを的確に診断し、専門医療機関と連携して治療の提案をいたします。
心室期外収縮と上手に付き合うための日常の工夫
ご自身の誘因を知り、避ける工夫を
どんな時に症状が出やすいか、簡単なメモ(症状日記)をつけてみると、ご自身の誘因が見えてくることがあります。
ストレスマネジメント
自分に合ったリラックス法を見つけ、心と体を休ませる時間を作りましょう。
睡眠と休息を大切に
質の良い睡眠は、心身の緊張を和らげ、交感神経の過剰な興奮を抑える上で非常に重要です。
カフェイン、アルコール、喫煙との付き合い方
これらは心臓を刺激し、期外収縮を誘発しやすいことが知られています。
症状が気になる場合は、控えめにすることを心がけましょう [2]。
スマートウォッチ等の自己測定で指摘されたら
家庭用心電計やスマートウォッチの記録は、診断の大きな助けになることがあります。
結果に一喜一憂せず、記録を持って医療機関を受診してください。
まとめ
当院では、丁寧な問診と正確な検査で、お一人おひとりの状態を正確に把握し、最適な方針をご提案します。
気になる症状やご不安な点がございましたら、どうぞお一人で悩まず、専門家である私たちにご相談ください。
お電話でのご予約
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この記事は情報提供を目的としており、個別の診断に代わるものではありません。
ご自身の健康状態や治療については、必ず医師にご相談ください。
参考文献