「先生、テレビでこう言っていたんですが…」
診察室に座っていると、患者さんからよくこのような質問をいただきます。
「テレビで〇〇が良いと言っていた」
「ネットで検索したら怖いことが書いてあった」
「週刊誌にこの薬は危ないと書いてあった」
現代は情報にあふれています。
スマートフォン一つあれば、どんな病気の情報も瞬時に手に入ります。
しかし、それと同時に「結局、何が正しいのか分からない」「情報がありすぎて逆に不安になる」という声も毎日のように耳にします。
正直に申し上げますと、「これさえ見ておけば絶対に大丈夫」という魔法のような情報源は、一般の方がアクセスできる場所にはほとんどありません。
医師である私ですら、新しい情報を追いかけるのは簡単ではありません。
お仕事や家事、育児で忙しい中で、限られた時間を使って情報を集めている皆さんが「疲れてしまう」のは、むしろ当然のことだと思います。
しかし、私たち医師が診療の現場で判断の拠り所としている「信頼の物差し」は確実に存在します。
今回は、少し裏側の話になりますが、「当院がどのようにして医学情報を収集し、ホームページの疾患解説記事を作成しているか」、そして「なぜそこまで情報の質にこだわるのか」について、当院の想いをお話ししたいと思います。
当院では、ホームページに掲載している情報を単なる「ブログ」や「コラム」とは考えていません。
これらはすべて、患者さんの健康を守るための「医学的な疾患解説」であり、診療行為の一部であると捉えて、全力を注いで作成しています。
1. なぜ、世の中には「不安を煽る記事」があふれているのか?
ネットや週刊誌を見ていると、時々「標準的な医療」を真っ向から否定するような記事や、極端に不安を煽るようなタイトルを目にします。
私たち専門医から見ると首をかしげたくなるような、いわゆる「トンデモ記事」も残念ながら少なくありません。
なぜ、こうした情報は無くならないのでしょうか?
その答えは、情報発信者の「目的」の違いにあります。
メディアやSNSの目的
テレビや週刊誌の最大の目的は、残念ながら「視聴率」や「販売部数」であることが多いです。
SNSや動画サイトであれば「再生数」や「いいねの数」です。
たくさんの人に見てもらうためには、どうしても「極端な言い回し」や「ショッキングな内容」、あるいは「奇跡的な効果」をうたう方が有利になります。
「地味で当たり前の標準治療」よりも、「常識を覆す新説!」の方がクリックしたくなりますよね。
つまり、構造上、「患者さんのためになるか」よりも「注目を集められるか」が優先されやすいのです。
当院の目的(利益相反の逆転)
一方で、当院がホームページで疾患解説を行う目的は、皆さんに「正しく病気を理解してもらい、健康になってもらうこと」以外にありません。
実は、当院のようなクリニックが詳しい解説記事を書くことは、経営的には「逆効果」になる可能性すらあります。
なぜなら、詳しく解説すればするほど、「記事を読んだだけで悩みが解決して、受診する必要がなくなる」方が増えるかもしれないからです。
受診が減れば、当院の利益は減ります。
それでも、まずは正しい情報をお伝えすることを優先したいと考えています。
もちろん、「自己判断で受診を控えてください」という意味ではありません。
「これは自分で様子を見てよいのか」「今は受診した方がよいのか」を一緒に考える材料として、できる限り正確で落ち着いた情報をお届けしたい、というスタンスです。
経営的な都合を優先して不安を煽る必要がないからこそ、ここにあるのは、現時点で信頼できる医学的な情報だけです。
これが、当院の情報発信の根底にあるスタンスです。
2. 医師の羅針盤「UpToDate」とは?
「じゃあ先生、ネットの情報の中で、一つだけ選ぶとしたら何を見ればいいですか?」
もしそう聞かれたら、私は迷わずこう答えます。
「UpToDate(アップトゥデート)の患者向け情報を見てください」
世界中の医師が信頼する「Web上の教科書」
UpToDateとは、世界中の数千人のトップクラスの専門医が執筆し、毎日更新されている「オンラインの医学教科書」のようなものです。
新しい論文が出ればすぐに検証され、内容が書き換えられます。
個人の医師の「経験則」や「思い込み」ではなく、世界中の膨大なデータに基づいた「現時点での医学的な正解(コンセンサス)」がそこにあります。
私たち医師にとって、UpToDateに書かれていることは、言わば「最高裁判所の判例」のような、非常に重みのある事実です。
しかし、2つの「壁」があります
「じゃあそれを見ればいいんですね!」と思われるかもしれませんが、一般の方が利用するには2つの大きな壁があります。
当院が「情報の橋渡し役」になります
そこで、当院の出番です。
私は個人でこのUpToDateを契約し、常に最新の情報にアクセスできる環境を整えています。
医師として患者さんに最適な医療を提供するための、必要な投資だと考えているからです。
当院のホームページの疾患解説は、この「世界最高峰の情報」をベースにしつつ、日本の医療事情や皆さんの生活背景に合わせて、分かりやすく書き下ろしたものです。
その際、単に英語を日本語に置き換えるだけでなく、「日本では使えない薬が紹介されている場合はどう補うのか」「保険診療の範囲で現実的にできる選択肢は何か」といった視点も含めて、医師である私が内容を咀嚼し直しています。
自動翻訳やAIだけでは、「専門用語の意味」「日本で実際に行える医療とのギャップ」までは埋めきれません。
だからこそ、現場で診療している医師が、責任を持って翻訳し、取捨選択を行うことが大切だと考えています。
なお、当院の疾患解説はUpToDateだけを噛み砕いたものではありません。
各学会の診療ガイドラインや医学教科書、専門医向けのWebinarや学会発表なども確認し、そこで得られた知見と照らし合わせながら、「実際の診療現場で本当に役立つ形」に再構成しています。
日本のどこにお住まいでも、たとえ地方であっても、当院のサイトを通じて「世界標準の正しい知識」に触れられること。
これこそが、地域医療を担う私の使命だと考えています。
3. 当院の疾患解説記事ができるまで
具体的に、当院の解説記事は以下のような4つのステップで作成されています。
【徹底的なリサーチ】
まず、現行のガイドライン、医学教科書、そして前述のUpToDateや専門医向けの文献を読み込み、情報の土台を作ります。
【構成の整理】
集めた確かな医学情報を整理し、解説の「骨子(構成案)」を作成します。
ここではAIなどの最新技術も活用し、情報の抜け漏れがないよう論理的に構成します。
【診察室の実感を加える(最重要ステップ)】
ここが一番大切です。教科書的な情報に、「現場の温度感」を加えます。
「教科書にはこう書いてあるけど、実際はこういう生活の悩みが多い」
「この薬については、よくこんな誤解をされている方がいる」
「診察室でよく聞かれる質問はこれ」
これらは、AIや教科書の丸写しでは絶対に書けません。
日々、皆さんと向き合っている臨床医だからこそ書ける「生きた言葉」で肉付けしていきます。
【分かりやすさの追求】
最後に、専門用語を平易な言葉に直し、図解やイラストを作成して、視覚的にも分かりやすく仕上げます。
4. この記事は「あなた」と共に成長します
当院の疾患解説に「完成」はありません。
なぜなら、医療は日々進歩し、患者さんの悩みも一人ひとり違うからです。
解説の中で紹介している「よくある質問」の多くは、実際に診察室で患者さんからいただいた言葉そのものです。
「こんなこと聞いてもいいのかな?」と思わず、診察室ではどんな些細なことでも質問してください。
あなたのその質問が、解説をより分かりやすくアップデートし、同じ悩みを持つ他の誰かを救うきっかけになるかもしれません。
当院の疾患解説は、私と皆さんとの「対話」によって成長し続ける、生きたドキュメント(Living Document)なのです。
5. 地域の「健康図書館」でありたい
最後に。
なぜ私が時間とコストをかけて、ここまで情報発信に力を入れるのか。
それは、「医療リテラシー(健康に関する正しい知識)」こそが、皆さんを守り、そして私たちの社会を守る最大の武器になると信じているからです。
昨今、ニュースなどで「社会保障費の高騰」が叫ばれています。
税金や保険料の負担は、皆さんにとっても常に重くのしかかっていることと思います。
これに対して、国としても色々な方策を検討していますが、私は一つの信念を持っています。
「一般の方々の医療リテラシーが向上しない限り、どの施策もうまくいかないだろう」
医療費の節約は、単に「〇〇費を削りましょう」で済むような簡単な問題ではありません。
こうした一人ひとりの「正しく知ろうとする小さな一歩」の積み重ねこそが、結果として医療の無駄を省き、持続可能な医療制度を守ることにつながると信じています。
医療者だけでも、患者さんだけでも、この課題は解決できません。
医師と患者さんが同じ方向を向き、一緒に考えていくことが、これからの医療にとって何より大切だと感じています。
当院のホームページが、単なるクリニックの宣伝媒体ではなく、地域の方が困ったときにいつでも頼れる「公共の健康図書館」のような存在になれるよう、これからも誠実に情報を発信し続けていきます。
ネットの情報に迷ったら、まずは当院のサイトを覗いてみてください。あるいは、診察室で答え合わせをしに来てください。
「どの情報を信じればよいか分からない」と感じたときこそ、遠慮なく頼ってください。
情報の洪水の中で迷子にならないよう、一緒に地図を広げて考えていくことが、当院の役割だと考えています。
いつでもお気軽にご相談ください。
【参考文献・情報源について】
当院の疾患解説は、主に以下の情報源に基づき作成されています。
※当院の疾患解説は、一般的な医学情報の提供を目的としたものであり、個々の患者さんの診断や治療方針を直接決めるものではありません。
具体的な症状や治療については、必ず医療機関で医師にご相談ください。