「病院に行くたびに、お薬の種類が増えていく」
「症状は変わらないのに、何年も同じお薬を飲み続けている」
このような不安を感じたことはありませんか?
お薬は、適切に使えば健康を守る強力な手段になります。
一方で、漫然とした服用や過剰な併用は、副作用や飲み間違いを招き、かえって体調を崩す原因になることがあります。
当院が大切にしているのは、「薬の数」に頼る診療ではなく、「薬の質」と「必要性」を見極める診療です。
この記事では、近年問題となっている「ポリファーマシー(多剤併用)」のリスクと、当院が目指す「お薬の最適化(必要性を見極めて整理し、必要なお薬は適切に続けること)」についてお話しします。
1. 薬が増えすぎると何が起きる? ポリファーマシーのリスク
「ポリファーマシー」とは、単にお薬の数が多いことだけを指すのではありません。
多くのお薬を服用することで、副作用が出たり、飲み間違いが起きたりして、かえって健康を害してしまっている状態をいいます。
薬は「5〜6種類」を超えるとリスクが増える
特にご高齢の方では、一般的に5〜6種類以上のお薬を服用していると、ふらつき・転倒・認知機能への影響など、有害事象のリスクが高まることが報告されています。
ただし、これは「お薬が多い=すべて悪」という意味ではありません。
例えば、心不全や心筋梗塞の後、重い糖尿病など、命を守るためにどうしても5種類以上のお薬が必要な方もいらっしゃいます。
その場合は、医学的に妥当な「適切な多剤併用」であり、決して否定されるものではありません。
大切なのは、そのお薬が「今のあなた」にとって本当に必要か、副作用で新たな不調を招いていないかを見極めることです。
加齢に伴い、肝臓や腎臓で薬を分解・排泄する働きが変化するため、以前は問題なかった量でも効きすぎたり、体内に残りやすくなったりすることがあります。
2. 薬が雪だるま式に増えてしまう「処方カスケード」のモデルケース
お薬の副作用による症状を「新しい病気」と捉えてしまい、さらに別のお薬が追加されてしまう悪循環を「処方カスケード」と呼びます。
ここでは、複数の医療機関を受診する中でお薬が増えてしまった代表的なケース(複数の事例を基にした合成例)をご紹介します。
薬が増えていった「負の連鎖」の一例
この方は、もともと高尿酸血症の治療を受けていた方でしたが、当院初診時には10種類以上のお薬を服用されていました。
丁寧に状況を整理すると、次のような流れが起きていた可能性がありました。
★ここで私が初めて診察を行いました
当院でのアプローチ:どう整理したか
当院では、次の手順で慎重に評価を行います。
その結果…
患者さんと相談しながら安全性に配慮してお薬を整理していったところ、諸症状は次第に改善し、最終的には10種類以上あったお薬を、本来の目的であった治療薬「たった1種類」にまで絞り込むことができました。
当院では、「お薬を処方する以上、起こり得る代表的な副作用についても事前にお話しすべきである」と考えています。
副作用のリスクを含めて納得いただいた上で、それを上回る必要性が認められる場合のみ処方する。
この誠実なプロセスこそが、本来の医療であると信じています。
3. 当院のお薬の見直しの進め方:医学的根拠に基づくアプローチ
お薬の見直しは、単に数を減らす作業ではなく、安全性と生活の質を高めるための、重要な医療プロセスです。
当院ではガイドライン[1]や最新の知見[4]に基づき、次の考え方で進めます。
4. 漫然と処方されがちな薬①:そのビタミン剤、本当に必要ですか?
「疲れやすい」といった訴えに対し、ビタミン剤が処方されることがありますが、医学的な必要性を一度立ち止まって考えることが重要です。
当院が「ニンニク注射」などの自費診療を行わない理由
いわゆる「ニンニク注射」等の主成分はビタミンB1ですが、当院では疲労回復を目的とした自費のビタミン点滴は行っていません。
医学的根拠が明確な医療に集中する方針のため、当院ではこれらのメニューを設けていません。
私自身、日々の体調管理において、疲労回復を目的にこれらの注射を選択することはありません。
5. 漫然と処方されがちな薬②:その痛み止め、リスクをご存知ですか?
ロキソニン等の解熱鎮痛薬(NSAIDs)を、痛みのために長期間服用し続けているケースも注意が必要です。
長期服用で問題になり得ること
当院では、安易にお薬を出し続けることはしません。
痛みの原因を診断した上で、外用薬への切り替え、生活指導、必要に応じた専門施設への紹介など、飲み薬以外の選択肢も含めて検討します。
6. 減らすだけではありません:しっかり管理して使い続けるべき薬
不要なお薬を整理する一方で、適切に管理しながら、しっかり使い続けるべき薬があります。
高血圧、心不全、糖尿病など、将来の合併症を防ぐための治療薬です。
これらの慢性疾患の治療において、最も避けるべきは「薬を飲んでいるから大丈夫」という安心感だけで、肝心の数値が改善していない状態です。
例えば、高血圧治療なら「上が125/下が75未満(家庭血圧)」、糖尿病なら「HbA1c 7.0%未満」など、一人ひとりに明確な「治療目標値」を設定します。
当院では、診察室での測定だけでなく、皆さんが記録した「家庭血圧」や「血糖データ」を毎回必ず確認します。
もし目標に達していなければ、「なぜ下がらないのか」を検討し、生活習慣の再確認や、お薬の種類・量の調整など、具体的な次のステップを提案します。
「数値が変わらないのに、前回と同じ処方が続く」という漫然とした状態にならないよう、結果に責任を持って診察にあたります。
7. まとめ:10年後も元気でいるために
お薬の種類を増やすのは簡単ですが、整理するには医師と患者さんの信頼関係と丁寧な観察が必要です。
この「お薬の最適化」が、10年後、20年後も健やかに過ごすための鍵となります。
お薬のことで少しでも不安がある方は、お薬手帳をご持参のうえ、ぜひ一度ご相談ください。
参考文献
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