はじめに:こんな症状でお悩みではありませんか?
3週間以上続くその咳、ただの風邪の治りかけではないかもしれません。
この記事では、長引く咳でお悩みの仙台市および近隣の皆様のために、考えられる原因と、当院「仙台どうき・息切れ内科総合クリニック」での診療方針について分かりやすく解説します。
長引く咳の主な原因には、
「感染後咳嗽(かんせんごがいそう)」
「咳喘息(せきぜんそく)」
「アトピー咳嗽(がいそう)」
「胃食道逆流症」
などがありますが、原因は一つとは限りません。
咳が長引くほど、その背後に肺がんや結核、心不全といった重大な病気が隠れている可能性も考える必要があります。
当院では、咳の原因を探るため、診療ガイドラインでも推奨される「治療的診断(原因と推測される病気の治療を試してみる診断法)」を行うことがあります。
この記事を読んで、ご自身の症状と照らし合わせ、不安な場合は自己判断せず、お気軽に当院へご相談ください。
咳が続く期間で考えるべきこと
なぜ「3週間」が咳の診療で一つの目安になるの?
「もう3週間も咳が続いている…」
風邪なら数日で治るイメージがあるため、多くの方が「こんなに咳が続くのはおかしい」と不安に感じ始めるのがこの時期ではないでしょうか。
実は、医学的にもこの「3週間」は、咳の原因を考える上で大切な節目になります。
3週間未満で治まる咳は、そのほとんどが風邪などの感染症によるもので、自然に治ることが多いとされています [1, 2]。
しかし、それを超えて咳が続く場合、単なる風邪の咳とは少し様子が違う可能性が出てきます。
例えば、風邪が治った後も気道の過敏さが残ってしまう「感染後咳嗽」であったり、あるいは「咳喘息」のような別の病気が隠れていたりするサインなのです。
そのため、「3週間」を目安として、一度医療機関で詳しい検査を受けることをお勧めしています。
咳が続く期間による医学的な分類
咳は、続いている期間によって、原因として考えられる病気が変わってきます。
急性咳嗽(きゅうせいがいそう):3週間未満
主な原因は「感染症」です。
いわゆる「風邪」やインフルエンザなど、ウイルスや細菌の感染によるものがほとんどを占めます。
多くは自然に良くなります。
【注意点】
ただし、咳の期間が短くても、高熱が続く、息苦しさを感じる、胸が痛い、呼吸をするたびにゼーゼー・ヒューヒューという音がするといった症状がある場合は、肺炎など重い病気の可能性もあります。
このような「危険なサイン」が見られる場合は、3週間を待たずにすぐに医療機関を受診してください。
遷延性咳嗽(せんえんせいがいそう):3週間以上、8週間未満
感染症の可能性は下がってきます。
この時期の咳では、「感染後咳嗽」「咳喘息」「アトピー咳嗽」「胃食道逆流症」などが主な原因として考えられます。
慢性咳嗽(まんせいがいそう):8週間以上
感染症以外のさまざまな原因を考えます。
咳が2ヶ月以上続く場合、感染症の可能性はかなり低くなります。
遷延性咳嗽の原因に挙げた「咳喘息」「アトピー咳嗽」「胃食道逆流症」などに加え、鼻の症状が関連する「上気道咳嗽症候群(じょうきどうがいそうしょうこうぐん)」なども考えられます。
【特に注意すべきこと】
さらに重要なのは、この段階では「肺がん」「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」「結核」「間質性肺炎・肺線維症」「心不全」といった、命に関わる可能性のある重大な病気が隠れていないかを確認することです。
そのため、専門的な検査が不可欠です。
必要に応じて、より詳しいCT検査のために地域の連携病院をご紹介したり、呼吸器内科や耳鼻咽喉科の専門医へのご紹介も行っています。
長引く咳の主な原因
熱やのどの痛みは治まったのに咳だけが残る場合、主に次のような原因が考えられます。
補足
実際にはこれらの原因が一つだけではなく、複数重なって咳を引き起こしていることも少なくありません。
例えば、咳喘息と胃食道逆流症を合併している、といったケースです。
当院では、考えられる原因を一つずつ丁寧に探り、治療を進めていきます。
1. 感染後咳嗽(かんせんごがいそう)
「熱も下がって元気になったのに、咳だけがしつこく残っている…」
これは、長引く咳の原因として非常に多い「感染後咳嗽」の典型的なパターンです。
ウイルスや細菌と戦った後の気道(空気の通り道)は、いわば"傷ついた"状態です。
そのため、粘膜がとても敏感になり、普段なら何でもないような少しの刺激にも過剰に反応して、咳が出てしまいます [1]。
【感染後咳嗽の主な特徴】
感染後咳嗽の治療
基本的には、時間とともに気道の敏感さが落ち着き、自然に治っていくのを待つことが治療の主体となります。
特効薬というものはありません [1, 5]。
しかし、「咳がひどくて眠れない」「仕事や会話に集中できない」など、日常生活に支障が出ている場合には、症状を和げるための治療を行います。
具体的には、以下のような選択肢があります [1, 5]。
注意点
「感染後咳嗽」という診断は、肺炎や結核、咳喘息といった他の病気の可能性がないことを、診察やレントゲン検査などでしっかり確認した上で初めてつけられます。自己判断は禁物です。
2. 咳喘息(せきぜんそく)
ゼーゼー・ヒューヒューという音(喘鳴)や息苦しさはないのに、乾いた咳だけが長く続くのが「咳喘息」です。
気管支喘息の一歩手前の状態とも考えられています。
【咳喘息の主な特徴】
注意:放置すると約3割の方が本格的な気管支喘息に移行するとも言われており、早期の診断と治療が大切です [3]。
咳喘息の治療
咳喘息の治療の基本は、気管支喘息と同じく、気道の炎症を抑えることです。
そのため、「吸入ステロイド薬」が最も中心的な治療薬となります [3, 4]。
このお薬を吸入することで、咳の原因となっている気道の炎症を直接鎮め、咳を根本から改善していきます。
症状に応じて、気道を広げて咳を楽にする「気管支拡張薬」や、アレルギー反応を抑えるお薬を併用することもあります。
3. アトピー咳嗽(あとぴーがいそう)
のどがイガイガ、ムズムズとかゆい感じがして、咳が出てしまうのが「アトピー咳嗽」です。
アレルギー素因(アトピー素因)を持つ方に多いとされています。
【アトピー咳嗽の主な特徴】
アトピー咳嗽の治療
アトピー咳嗽の治療では、咳喘息で使われる気管支拡張薬は効果がありません。
治療の中心となるのは、アレルギー反応を抑える「ヒスタミンH1拮抗薬(抗ヒスタミン薬)」です [1]。
症状によっては、咳喘息と同様に「吸入ステロイド薬」が使われることもあります。
4. 胃食道逆流症(いしょくどうぎゃくりゅうしょう)
胃酸が食道へ逆流することで、食道やのどが刺激されて咳が出ることがあります [2]。
【胃食道逆流症による咳の主な特徴】
胃食道逆流症の治療
胃食道逆流症による咳が疑われる場合、まずは胃酸の分泌を抑えるお薬(プロトンポンプ阻害薬:PPI)を一定期間使用してみるのが一般的な治療法です [1, 5]。
この治療で咳が良くなれば、診断の裏付けにもなります。
また、お薬と並行して、以下のような日常生活の工夫も咳の改善に効果的です。
当院の診療方針:なぜ咳止めだけの処方はしないのか
1. 咳の「本当の原因」を探ることを最優先します
最も重要なのは、「なぜ咳が続くのか?」という原因を突き止めることです。
一般的な咳止め薬(メジコン、リン酸コデインなど)は、つらい症状を和らげる目的で処方されることがありますが、その効果に関する科学的根拠は十分とは言えません。
咳の「原因を治す」薬ではありません。
原因が咳喘息や胃食道逆流症である場合、咳止めだけでは根本的な解決にならず、かえって病気の発見を遅らせてしまう危険性があります。
当院では、原因を特定しないまま安易に咳止め薬だけを処方し続けることはありません。
まずは丁寧な問診と必要な検査(胸部レントゲンなど)や紹介等で、肺がんや結核などの危険な病気を見逃さないことを徹底します。
2. 「治療的診断」で、診断と治療を同時に進めます
長引く咳の診療では、検査だけでは原因を特定しきれないことが少なくありません。
そこで当院では「治療的診断」というアプローチを重視しています [1]。
これは、問診や検査から最も可能性の高い原因を推測し、その病気に効果的なお薬を実際に使ってみて、症状が改善するかどうかで診断の確からしさを判断する方法です。
例えば、「咳喘息かもしれない」と判断した場合に吸入ステロイド薬を処方し、咳が明らかに良くなれば、診断の裏付けとなります。
この方法は、診断と治療を同時に進められる有効な手段です。
3. 総合内科・循環器内科の視点で多角的に診療します
当院は呼吸器だけでなく、総合内科専門医として全身を診る視点を大切にしています。
さらに循環器内科専門医を有しているため、「咳」と密接に関連することのある「心不全」の診断・治療も当院で一貫して行うことができます。
「咳だけでなく、動悸や息切れも気になる」という場合も、複数の医療機関を受診することなく、総合的に拝見できるのが当院の強みです。
よくあるご質問(Q&A)
Q1. 病院に行ったら、どんな検査をするのですか?
A. 当院では、まず患者さんのお話を丁寧に伺い、咳の性質やきっかけを詳しくお聞きします。
その上で、まず胸部レントゲン検査を行い、肺炎や肺がん、結核といった肺そのものに重大な病気が隠れていないかをしっかりと確認します。
胸部レントゲン検査でさらに詳しい検査が必要と判断した場合には、CT検査などが行える画像検診クリニックや、地域の基幹病院の呼吸器内科へ速やかにご紹介します。
また、咳とともに痰が出る場合には、状況に応じて結核の検査を行ったり、肺がんを調べるために痰を検査(喀痰細胞診)に提出したりすることもあります。
心不全が咳の原因として考えられる場合には、採血や心臓の超音波検査(心エコー検査)を行うこともあります。
Q2. 市販の咳止めが効きません。どんな治療がありますか?
A. 市販薬を試しても咳が良くならない場合、咳の根本的な原因に合った治療ができていない可能性があります。
長引く咳の治療は、原因に合わせたお薬を使うことが最も重要です。
Q3. 咳が続くとき、日常生活で気を付けることはありますか?
A. お薬による治療と合わせて、セルフケアも大切です。
特に、喫煙されている方は禁煙が治療の絶対条件となります。
禁煙
喫煙は咳を悪化させる最大の要因であり、気道を常に刺激し続けます。
どのような原因の咳であっても、喫煙を続けている間は決して治りません。
治療の第一歩として、必ず禁煙をお願いします。
ご家族など周りの方のタバコの煙(受動喫煙)にも注意が必要です。
長引く咳でお悩みの方は、仙台どうき・息切れ内科総合クリニックへ
長引く咳は、睡眠を妨げ、体力を消耗させ、周りの目も気になり、心身ともに大きな負担となります。
当院では、そのつらい症状の原因を丁寧に探り、患者さんと一緒に治療のゴールを目指します。
必ずしも原因が一つに特定できるとは限らず、治療に時間がかかることもあります。
しかし、考えられる原因に対して一つずつアプローチしていくことで、多くの場合、症状は改善に向かいます。
一通り考えられる検査・治療を行っても咳の原因が不明な場合は、高次医療機関の呼吸器内科専門医へ速やかにご紹介する体制も整えています。
「このくらいの咳で病院に行くのは…」とためらわずに、どうぞお気軽にご相談ください。
参考文献
免責事項
この記事は情報提供を目的としており、個別の診断に代わるものではありません。ご自身の健康状態や治療については、必ず医師にご相談ください。