「風邪をひいたかな?」と思ったときに知っておきたいこと
「風邪をひいたかな?」と思ったとき、どんな症状が出て、どう対処すればいいのか、気になることはたくさんありますよね。
この記事では、風邪の基本的な知識からご家庭での対処法、医療機関を受診するタイミングまでを解説します。
そして、当院が風邪の症状に対してどのように考え、診療を行っていくかを具体的にお示しします。
この記事が、皆さんの不安を和らげ、安心して当院を受診いただくための一助となれば幸いです。
この記事でわかること
1. 風邪の症状はどう進む? 熱や咳はいつまで続く?
一般的に「風邪」(医学的には普通感冒)は、ライノウイルスやコロナウイルス(新型コロナウイルス感染症とは異なる、従来からあるもの)など、200種類以上ものウイルスが原因となって起こる上気道感染症です [1, 2]。
さらに、例えばライノウイルスだけでも100種類以上の型(血清型)が存在するため、私たちは一生のうちに何度も風邪をひく可能性があります。
また、実際にウイルスに感染しても、症状が出ないまま自身の免疫力で治癒してしまう「不顕性感染(ふけんせいかんせん)」も非常に多く経験しています。
咳やくしゃみ、発熱といった症状が現れるのは、体内に侵入したウイルスを免疫システムが認識し、これを排除しようと戦っているサインなのです。
ウイルスに感染してから、およそ1〜3日で症状が出始めます [1]。
症状の出方と治り方(典型的なパターン)
風邪の症状は、体の免疫システムがウイルスと戦う過程で、時間とともに変化していくのが一般的です。
時期 | 主な症状 | ポイント |
---|---|---|
0〜1日目 | のどの違和感・痛み | 最初に現れることが多く、1〜2日でピークを迎え、比較的早く軽快します。 |
1〜3日目 | 鼻水・鼻づまり、発熱 | 水っぽかった鼻水が徐々に粘り気を帯び、時に黄色や緑色になるのは、ウイルスと戦った白血球の残骸などが混じるためで、多くは自然な経過です [1, 12]。熱は2〜3日でピークを迎え、その後は徐々に下がっていきます [3]。 |
3〜7日目 | 全体の症状が軽快傾向 | 症状が和らいできますが、咳やだるさだけが残ることもあります。 |
7日目以降 | 咳が残りやすい | 他の症状が治まった後も、咳だけが2〜3週間続くことがあります(感冒後咳嗽)。多くは8週間以内に自然に軽快します [4, 5]。 |
覚えておきたいポイント
2. つらい症状を和らげるには?(対症療法)
残念ながら、風邪のウイルスそのものを直接退治する特効薬は現在のところありません [6]。
そのため、風邪治療の基本は、体がウイルスと戦って回復するのを助けることにあります。
ご家庭でできるセルフケア
体が本来持つ治る力を高めることが、回復への一番の近道です。ご家庭でできる具体的な対処法をご紹介します [6]。
3. 当院での診療の流れと費用について
感染症の患者さんのための専用動線
当院では、他の患者さんへの感染を防ぎ、皆さんが安心して受診できる環境を最優先に考えています。
そのため、発熱や咳、のどの痛みといった感染症が疑われる症状で受診される方には、一般の患者さんとは完全に分離された専用の動線をご用意しています。
専用の入口からお入りいただき、受付、待合室、診察室、さらにはトイレやお会計に至るまで、他の患者さんと接触することがないよう設計されています。
どうぞ安心してご来院ください。
診察と検査、費用の目安
当院では、患者さんの症状を丁寧にお伺いし、身体診察を行った上で、本当に必要な検査を見極めます。
以下に、風邪症状で受診された際の一般的な検査と、3割負担の場合の費用の目安をお示しします。
項目 | 内容 | 3割負担の費用目安 | 備考 |
---|---|---|---|
診察料 | 初診料または再診料 | 約870円〜 | 時間帯などにより変動します。 |
迅速検査 | インフルエンザ、新型コロナウイルスなど | 約1,200円〜1,400円 | 検査の種類により異なります。 |
血液検査 | 白血球数やCRP(炎症反応)など | 約1,500円〜 | 細菌感染の合併が疑われる場合などに行うことがありますが、全ての方に行うわけではありません。 |
処方箋料 | お薬が処方された場合 | 約200円〜 |
当院の治療方針
つらい症状のために十分な休養が取れない、あるいは日常生活に大きな支障をきたす場合には、お薬の力を借りるという選択肢もあります。
これを対症療法と呼びます。
このとき、「腕の良い先生なら、あるいは大きな病院なら、風邪を早く治す特別な薬を出してくれるのでは?」と期待されるお気持ちは、非常によく分かります。
しかし、「風邪のウイルスそのものを攻撃し、治癒までの期間を短くする特効薬は、現在の医学では存在しない」というのが、クリニックか大病院かを問わず、世界中の医療の共通認識です。
これは、医師の力量や設備の問題ではありません。
この事実を踏まえ、当院では、風邪薬はあくまで「つらい症状を緩和し、少しでも楽に過ごせるようにするためのお守りのようなもの」と考え、患者さんの状態に応じて必要最小限のお薬を相談しながら使用することを基本方針としています。
「お薬で風邪が早く治るわけではない」こと、また「症状が完全に消えるわけではない」ことを丁寧にご説明し、患者さんがご自身の体の回復力を信じて、安心して療養に専念できるようサポートいたします。
当院で使用する可能性のあるお薬とその考え方
症状 | 処方薬の例(必要に応じて) |
---|---|
発熱・痛み | アセトアミノフェン(カロナール®など) |
咳 | デキストロメトルファン(メジコン®など) |
痰がからむ咳 | カルボシステイン(ムコダイン®など) |
のどの痛み | トラネキサム酸(トランサミン®など)、トローチ |
なぜ「総合感冒薬」を処方しないのか
市販薬でもおなじみの総合感冒薬(PL配合顆粒®など)には、複数の成分が一度に含まれています。
一見便利に思えますが、以下のような理由から、当院では原則として処方しておりません。
当院では、一つ一つの症状を丁寧に見極め、その方に本当に必要な治療を組み合わせていくことが、結果的により効果的で、副作用の少ない治療につながると考えています。
漢方薬について
漢方薬も風邪治療の選択肢の一つとして考えられます。
しかし、「風邪には葛根湯」のように、病名や症状だけで一律に処方できるほど単純なものではありません。
本来、漢方治療は、患者さん一人ひとりの体質や体力、症状の現れ方(これを「証(しょう)」と呼びます)を丁寧に見極め、八綱弁証(はっこうべんしょう)、気血水弁証(きけつすいべんしょう)、外感病弁証(がいかんびょうべんしょう)といった漢方医学独特の診断体系に基づいて、数ある処方の中から最適なものを選択するという、非常に専門性の高いアプローチを必要とします。
4. 【重要】風邪と「抗生物質」について
「風邪をひいたら抗生物質(抗菌薬)を飲めば早く治る」そう思われている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、これは大きな誤解です。
「ウイルス」と「細菌」は、よく混同されがちですが、上の図が示すように、実は大きさが全く異なります。
風邪の原因となるコロナウイルスの直径は約0.1µm。それに対して大腸菌などの細菌は約3µmと、ウイルスよりも数十倍も大きいのです。
このスケールの違いは、「もしウイルスが人間サイズだったら」と想像すると、より直感的に理解できます。
その場合、細菌は10階建てのビル、そして人間の大きさは、なんと日本列島ほどの大きさに相当します。
このように、ウイルスは細菌に比べてとても小さく、構造も全く異なる存在です。
だからこそ、細菌を攻撃するために作られた「抗生物質」は、ウイルスには全く効果がないのです。
「でも、以前風邪を引いた時に抗生物質を飲んだらすぐに治った気がするんだけど。」
「いつも風邪を引いた時にかかっているところでは抗生剤が必ず出るんだけど。」
こういった疑問はとても自然なものです。
しかし、そこにはいくつかの理由と、皆さんの将来の健康に関わる大きな問題が隠されています。
当院では、この「抗生物質の適正使用」を、クリニックの診療における極めて重要な信条の一つと考えています。
さらに詳しく知りたい方へ
その詳しい理由については、ぜひこちらのページをご覧ください。(準備中)
5. 療養中の過ごし方と再受診の目安について
風邪と診断された後、どのように過ごし、どんな時にまた病院へ行けばよいのか、具体的な目安をお伝えします。
職場や学校への復帰について
「いつから会社や学校に行っても良いですか?」というご質問もよく受けます。
インフルエンザや新型コロナウイルス感染症とは異なり、普通の風邪には法律で定められた明確な出席・出勤停止期間はありません。
こういう時は、もう一度受診してください
ほとんどの風邪は自然に良くなりますが、中には注意が必要なサインもあります。
以下のような症状が見られる場合は、単なる風邪ではない可能性や、肺炎などの合併症を起こしている可能性も考えられますので、我慢せずに再度ご受診ください [13]。
ご自身の体調で不安なことがあれば、遠慮なくご相談ください。
6. まとめ:風邪かなと思ったら
ご相談・ご予約はこちらから
宮城県仙台市で風邪の症状にお悩みの方は、当院までお気軽にご相談ください。
患者さん一人ひとりの症状と体質に合わせた、丁寧な診療を心がけています。
監修
仙台どうき・息切れ内科総合クリニック院長 諸沢 薦
参考文献
[1] Heikkinen T, Järvinen A. The common cold. Lancet. 2003;361(9351):51-9.
[2] Sexton DJ, McClain MT. The common cold in adults: Diagnosis and clinical features. In: UpToDate, Post TW (Ed), UpToDate, Waltham, MA. (Accessed on June 22, 2025)
[3] 山本舜悟. かぜ診療マニュアル 第3版. 東京: 日本医事新報社; 2019.
[4] Tyrrell DA, Cohen S, Schlarb JE. Signs and symptoms in common colds. Epidemiol Infect. 1993;111(1):143-56.
[5] 具芳明 編. 学び直し風邪診療. 東京: 中外医学社; 2024.
[6] Sexton DJ, McClain MT. The common cold in adults: Treatment and prevention. In: UpToDate, Post TW (Ed), UpToDate, Waltham, MA. (Accessed on June 22, 2025)
[7] Raeessi MA, Aslani J, Raeessi N, et al. Honey plus coffee versus systemic steroid in the treatment of persistent post-infectious cough: a randomised controlled trial. Prim Care Respir J. 2013;22(3):325-30.
[8] 厚生労働省. 抗微生物薬適正使用の手引き 第三版. 2023.
[9] Kenealy T, Arroll B. Antibiotics for the common cold and acute purulent rhinitis. Cochrane Database Syst Rev. 2013;(6):CD000247.
[10] Antimicrobial Resistance Collaborators. Global burden of bacterial antimicrobial resistance in 2019: a systematic analysis. Lancet. 2022;399(10325):629-655.
[11] O'Neill J. Tackling drug-resistant infections globally: final report and recommendations. Review on Antimicrobial Resistance. 2016.
[12] Mainous AG 3rd, Hueston WJ, Eberlein C. Colour of respiratory discharge and antibiotic use. Lancet. 1997;350(9084):1077.
[13] Dolin R. Seasonal influenza in adults: Clinical manifestations and diagnosis. In: UpToDate, Post TW (Ed), UpToDate, Waltham, MA. (Accessed on June 22, 2025)