胸痛の症状・原因・治療|放置は危険!循環器専門医が解説
「胸がズキっと痛む…」
「胸が締め付けられるように苦しい…」
「これって心臓の病気?すぐに病院に行った方がいいの?」
突然の胸の痛みは、誰にとっても大きな不安を感じさせるものです。
ありふれた症状と感じるかもしれませんが、その背後には、時に心筋梗塞や大動脈解離といった、命に関わる重大な病気が隠れていることがあります。
「このくらいの痛みなら大丈夫だろう」「少し休めば治るだろう」という自己判断は、実はとても危険です。胸に異変を感じたら、まずは医療機関を受診し、医師による正確な診断を受けることが何よりも大切です。
この記事では、内科および循環器内科を専門とする医師の視点から、胸痛に関する様々な疑問にお答えしていきます。
- あなたの胸の痛みが、どのような特徴を持つものかセルフチェックできます。
- 胸痛の原因となる代表的な病気について理解できます。
- 特に危険な胸痛のサインを知り、緊急時に適切に行動できるようになります。
- 当院での診察の流れや検査内容が分かり、安心して受診に臨めます。
- 日常生活でできる胸痛の予防法を具体的に学べます。
第1章 その胸の痛み、どんな痛みですか? ~胸痛の種類と原因~
「胸痛」と一言でいっても、その感じ方や現れ方は人それぞれです。
診察の際には、以下のような特徴をできるだけ詳しく教えていただくことが、正確な診断への重要な手がかりとなります。
項目 | 特徴の例 |
痛みの性質 | 「ズキズキ」「チクチク」といった鋭い痛み 「締め付けられる」「押しつぶされる」圧迫感 「焼けるような」「ヒリヒリする」灼熱感 「なんとなく重苦しい」といった鈍い痛み |
痛む場所 | 胸の真ん中、左胸、右胸 背中や肩、腕、顎、歯に痛みが広がる(放散痛) |
持続時間 | 数秒~数分で治まる一過性のもの 数十分~数時間続くもの |
状況 | 階段を上るなど体を動かした時(労作時)に強くなる 夜間や早朝など安静にしている時に起こる 食事と関連して起こる 深呼吸や咳、体の向きを変えると痛みが変化する 特定の場所を押すと痛む(圧痛) |
補足: 可能であれば、これらの特徴をご自身のスマートフォンなどにメモしていただくと、診察がよりスムーズに進みます。
1-2. 胸痛を引き起こす主な原因臓器:どこから来る痛み?
胸痛は、胸部にある様々な臓器や組織の異常によって引き起こされます。
- 心臓・血管の病気:狭心症、心筋梗塞、大動脈解離、心膜炎、不整脈など
- 肺・気管支の病気:気胸、肺炎、肺血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)など
- 消化器の病気:逆流性食道炎、胃・十二指腸潰瘍など
- 胸の骨・筋肉・神経の病気:肋軟骨炎、肋間神経痛、帯状疱疹、胸壁症候群など
- その他:精神的なストレス、不安神経症、パニック障害など
注意: このように、胸痛の原因は多岐にわたるため、自己判断は禁物です。
第2章 危険な胸痛:こんな症状は要注意! ~見逃してはいけないサイン~
胸痛の中には、迅速な診断と治療が不可欠な、命に関わる可能性のある「危険な胸痛」があります。
以下に挙げるような症状が見られる場合は、ためらわずに救急車を呼ぶか、速やかに医療機関を受診してください。
胸痛を引き起こす病気の中でも、特に緊急性が高く、絶対に見逃してはならない代表的な病気を3つご紹介します。
病名 | 主な症状の特徴 |
急性冠症候群 (心筋梗塞・不安定狭心症) | 突然の激しい胸の圧迫感・締め付け感 冷や汗、吐き気、呼吸困難を伴うことが多い 「これまでに経験したことのない痛み」と表現されることも |
急性大動脈解離 | 突然の引き裂かれるような激しい胸や背中の痛み 痛みが移動することがある |
肺血栓塞栓症 (エコノミークラス症候群) | 突然の呼吸困難と胸痛 咳、血の混じった痰(たん)、失神などを伴うことも |
2-2. 緊急受診の目安となる症状:こんな時はすぐに病院へ!
ご自身やご家族に、以下のような症状が見られた場合は、すぐに医療機関を受診するか、救急車を要請してください。
- これまでに経験したことのないような激しい胸痛
- 突然発症の胸痛(何時何分に始まった、とはっきり言えるような痛み)
- 胸痛とともに、呼吸困難、冷や汗、吐き気・嘔吐、めまい、意識が遠のく感じ、失神がある
- 痛みがどんどん強くなる、または痛む範囲が広がっていく
- (狭心症と診断されている方で)ニトログリセリンを使っても痛みが改善しない
第3章 胸痛の原因となる主な病気 ~心臓から筋肉まで~
危険な胸痛以外にも、胸痛を引き起こす病気はたくさんあります。
ここでは、比較的頻度の高いものや、注意が必要な心臓・血管の病気を中心に解説します。
狭心症(安定狭心症)
労作性狭心症とも呼ばれ、歩いたり階段登ったりなど体を動かした時に症状が現れるのが特徴です。
- 症状
階段を上る、重い物を持つなどの労作時に、胸の中央部や左胸に締め付けられるような痛みや圧迫感が現れます。
通常、数分~15分程度で、安静にすると軽快します。 - 原因
心臓に血液を送る冠動脈が、主に動脈硬化によって狭くなり、運動時に心臓が必要とする血液(酸素)が足りなくなるために起こります(5, 6)。 - 治療
薬物療法と生活習慣の改善が基本です。病状によってはカテーテル治療(PCI)やバイパス手術(CABG)が検討されます(7, 8)。
冠攣縮性狭心症(かんれんしゅくせい きょうしんしょう)
安静時に症状が現れるタイプの狭心症で、日本人には比較的多いとされています。
- 症状
労作とは関係なく、夜間から早朝にかけての安静時に、胸の圧迫感や締め付け感が生じます。
喫煙、過労、ストレスなどが誘因となります。 - 原因
冠動脈が一時的に痙攣(けいれん)して異常に収縮し(これを攣縮といいます)、血流が悪くなることで起こります(4, 9)。 - 治療
血管の攣縮を予防する薬(カルシウム拮抗薬や硝酸薬など)による薬物療法が中心です。治療の大前提として、禁煙が非常に重要です。
心膜炎・心筋炎
主にウイルス感染などが原因で、心臓を包む膜(心膜)や心臓の筋肉(心筋)に炎症が起こる病気です。
- 症状:深呼吸や咳、体の向きを変えた時に強くなる鋭い胸痛や、発熱、全身の倦怠感などが特徴です(3, 4)。
不整脈
脈のリズムが乱れることで、動悸やめまい、失神などを感じることがあります。
これに伴って胸の不快感や痛みを感じることもあります。
気胸(肺に穴が開く病気)や肺炎、胸膜炎(肺を包む膜の炎症)、気管支喘息の発作などでも胸痛が起こることがあります。
これらの病気では、息切れや咳、発熱といった呼吸器系の症状を伴うことが多いのが特徴です。
逆流性食道炎(胃酸が食道に逆流する病気)や胃・十二指腸潰瘍などでも、胸の痛みが起こることがあります。
胸焼けや呑酸(酸っぱいものがこみ上げる感じ)など、食事との関連があるのが特徴です(4)。
肋軟骨炎や肋間神経痛、帯状疱疹など、胸の壁(胸壁)が原因となる痛みです。
- 特徴
命に関わることは通常ありませんが、胸痛の原因としては非常に頻度が高いとされています。
地域のクリニックを受診する胸痛患者さんの2~5割がこの胸壁痛だったという報告もあります(4)。
特定の場所を押すと痛みが強くなったり(圧痛)、体の動きで痛みが変化したりするのが特徴です。 - 注意点
頻度が多いからといって自己判断は禁物です。
まずは心臓など他の危険な病気ではないか、慎重に鑑別することが最も重要です。
精神的なストレスや不安、パニック障害などが原因で胸痛や胸の圧迫感が生じることもあります。
動悸や息苦しさ、めまいなどを伴うこともあり、他の病気との鑑別が必要です(4)。
必要に応じて、心療内科など専門医との連携も検討します。
第4章 胸痛で当院を受診したら…~診察の流れと当院の取り組み~
「胸が痛いけれど、クリニックに行ったらどんなことをするんだろう?」
「どんな検査をするの?」
「時間はどれくらいかかるの?」
ご自身の症状に不安を感じ、初めてクリニックを受診される際は、特に心配なことと思います。
ここでは、あなたが胸痛を感じて当クリニックを受診された場合の、具体的な診察の流れをご説明いたします。
少しでも安心してご来院いただける一助となれば幸いです。
STEP 1: ご来院・受付 ~スムーズな診療のために~
当院は、患者さんの待ち時間を少しでも短縮するため、原則としてご予約制です。
- Web予約: ホームページから24時間いつでもご予約いただけます。(準備中)
- お電話でのご予約: Web予約が難しい場合は、診療時間内にお電話ください。(準備中)
注意
もし、現在も強い痛みがある、冷や汗が出る、呼吸が苦しいといった場合は、決して我慢せず、すぐにその旨をスタッフにお申し出ください。
状況に応じて、迅速に対応いたします。
(※症状が非常に激しい場合は、ご来院いただく前に救急車を要請することもご検討ください。)
STEP 2: 問診・診察 ~丁寧にお話を伺います~
当院では、患者さんのお話を丁寧に伺うことを最も大切にしています。
症状について詳しくお尋ねした後、聴診や触診、血圧測定などを行います。
不安なこと、心配なことなど、どんな些細なことでも遠慮なくお話しください。
問診と診察の結果に基づき、原因を特定するために必要な検査を行います。当院では、以下の検査を院内で迅速に行うことが可能です。
検査項目 | 内容 | 費用目安(3割負担) |
心電図検査 (ECG) | 心筋梗塞や狭心症、不整脈などの兆候がないかを確認します。 | 400円程度 |
胸部X線検査 (レントゲン) | 心臓の大きさや形、肺の状態などを確認します。(P→A方向1枚撮影の場合) | 800円弱 |
心エコー検査 (心臓超音波) | 心臓の動き、大きさ、弁の状態などをリアルタイムで詳しく観察します。 | 2,700円弱 |
血液検査(迅速検査) | 心筋梗塞や心不全、肺塞栓症などを調べるための緊急性の高い項目です。院内機器で迅速に結果が分かります。 | 2,500円~3,000円程度 |
- ここに挙げた検査は代表的なもので、必ずしも全てを行うわけではありません。
医師が診察のうえで、患者様の症状に合わせて必要な検査をご提案します。 - 上記の金額は、2024年度の診療報酬点数に基づくあくまで目安です。
患者様の状態や診察内容により、検査項目や費用は変動する場合があります。 - 上記の費用に加えて、診察料が必ずかかります。
- お薬を処方する場合、当院での会計とは別に調剤薬局で薬代が必要となります。
- ご不明な点がございましたら、ご遠慮なくスタッフまでお問い合わせください。
STEP 4: 診断と方針説明 ~分かりやすく丁寧にご説明します~
検査結果を総合的に判断し、考えられる原因や今後の治療方針について、分かりやすい言葉で丁寧にご説明いたします。
- 緊急性が高い場合
速やかに連携している高度医療機関へご紹介し、救急車による転院搬送を行います。 - より専門的な検査が必要な場合
連携医療機関への紹介を行います。 - 心臓以外の原因の場合
原因に応じた治療を開始し、必要であれば専門医へご紹介します。 - 危険性の低い病気の場合
なぜ心配ないと考えられるのか、その根拠をしっかりご説明し、まずは患者さんの不安を和らげることを第一に考えます。
どのような診断結果であっても、患者さんがご自身の状態を正しく理解し、納得して次のステップに進めるよう、十分な時間をかけてご説明いたします。
胸痛の治療は、その原因によって多岐にわたります。この章では、特に日常生活で取り組める胸痛の『予防』に焦点を当てて解説します。
特に心臓・血管系の病気は、日頃の生活習慣と深く関わっています。
以下の点を心がけることで、発症リスクを下げることが期待できます(12, 13)。
高血圧、脂質異常症、糖尿病は動脈硬化を進行させる大きな原因です。
健康診断などで指摘された場合は、医師の指導のもとで適切に治療・管理しましょう。
高血圧の管理
収縮期血圧(上の血圧)を10mmHg下げるだけで、冠動脈疾患のリスクが約17%低下するという報告があります。
これは、高血圧の方およそ6人のうち1人が、適切な治療によって将来の心臓病を回避できる計算になります(14)。
喫煙は心臓病の最大の危険因子の一つです。研究によれば、
「もしタバコがなくなったら、心筋梗塞で苦しむ男性患者さんの4人に1人から3人に1人は、そもそも病気にならなかった可能性がある」と推計されています(15, 16)。
禁煙の効果は絶大です。
禁煙してたった1年で、心臓病のリスクは約半分にまで激減します。
10~15年継続できれば、元々吸わなかった人と同程度までリスクを下げることができるのです(16, 17)。
『もう遅い』ということは決してありません。
- 節度ある飲酒:過度な飲酒は高血圧や不整脈の原因となります。
- バランスの取れた食事:塩分・脂肪分・糖分の摂りすぎに注意し、野菜や魚を積極的に取り入れましょう。
- 適度な運動:ウォーキングなどの有酸素運動を継続的に行うことは、心臓病予防に繋がります。
- 十分な睡眠と休養
- ストレスマネジメント
まとめ ~大切なからだからのサインを見逃さないで~
胸痛は、その原因が多岐にわたり、中には命に関わる危険な病気が隠れていることもあります。
最後に、この記事の要点をまとめます。
- こんな胸痛は要注意!
「これまでにない激しい痛み」「締め付けられるような圧迫感」「冷や汗や呼吸困難を伴う」場合は、迷わず救急受診を検討してください。 - 自己判断は禁物
症状が軽くても、胸の痛みの裏には様々な病気が隠れています。一度は医療機関を受診し、原因を調べることが大切です。 - 予防が何より重要
特に心臓の病気は、日頃の生活習慣の改善でリスクを大きく下げることができます。
胸の症状でお困りの方は、お気軽に当クリニックにご相談ください。 安心してご相談いただけるよう、スタッフ一同温かくお迎えいたします。
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- この記事は、胸痛に関する一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、個々の患者さんの診断や治療に代わるものではありません。
- 胸痛の症状がある場合は、必ず医師の診察を受けてください。
- 記載されている費用目安は、あくまで一般的なものであり、実際の費用は診療内容、使用する薬剤、個々の患者さんの状態、保険診療の改定などによって変動する可能性があります。正確な費用については、診察時に医師またはスタッフにご確認ください。